介護は身体・精神面において大きな負担がかかるが、金銭面における負担も無視できない。親の介護費用を子どもが支払うケースが散見される。経済的に余裕がない場合、なあなあにしていた支払いが、時を経て、親子関係やきょうだい関係を壊すトラブルの原因になることも少なくない。そうしたトラブルは極力避けたいものである。旦木瑞穂氏の著書『しなくていい介護』(朝日新聞出版)より、筆者の実体験とともに、「親の介護費用は親が出す」ことの重要性と、事前にできる対策をみていく。
「親の介護費用は親が出す」を徹底しよう
親の介護にかかった費用を子どもが払ってしまう事例が少なくない。例えば親の病院代や薬代だ。デイサービスなどの介護費用などは、親の年金が振り込まれる銀行口座から引き落とされる仕組みになっている場合が多いようだが、突発的に親が病院を受診し、その費用を子どもが払うケースが散見される。そのほかにも、子どもが実家に通う交通費や、実家で親のために用意する食事や共にする飲食代などは、子どもが払ってしまっている場合が多い。
もちろん、経済的に余裕があるなら良いだろう。しかしそうでないならば、「親しき仲にも礼儀あり」。介護費用のことで後々、親子関係、きょうだい関係を壊したくないなら、絶対になあなあにしてはならない。最初は「少しくらいいいだろう」と思っても、介護は何年続くかわからない。「塵も積もれば山となる」。いつか不満として爆発してしまうかもしれない。そうなる前に、親やきょうだいと話し合い、「親の介護費用は親が出す」を徹底しよう。
(1)交通費
遠距離や近居で介護のために実家に通う交通費も親のお金で賄おう。
(2)謝金
親の介護のために仕事を休む・働く時間を減らすなどして減収した分を、親から「謝金」としてもらおう。事情があって介護ができないきょうだいがいる場合、そのきょうだいからもらうケースもある。
(3)預かり金
親の万が一に備え「預かり金」として受け取っておくことは、生前贈与には当たらない。「預かり金」として親との間で覚書を交わし、以降、両親の介護でかかった費用はそこから出し、都度、明細や領収書を残す。両親が亡くなった後、残金があれば相続財産となる。ただし、きょうだいなどと揉める原因になる場合があるため、お互いに納得した上で行うこと。
(4)贈与税の基礎控除
年110万円までなら贈与税の基礎控除があるため、お金の受け渡しがあっても贈与税はかからない。
(5)代理人キャッシュカード
親の銀行口座の暗証番号を知らない子どもが、親の預金を引き出すことは容易ではない。通帳と印鑑があっても委任状がなければ難しく、親が委任状を書けない状態の場合はお手上げだ。銀行側が、親が認知症になったと知れば、口座を凍結されてしまう恐れもある。
このことは、夫婦間であっても同様だ。こうした事態に備え、親の通帳やカード、印鑑の保管場所や、暗証番号を聞いておくのはもちろん、どこかにメモしておいてもらうのも良い。銀行によっては、代理人でも預金を引き出せる「代理人キャッシュカード」を作成しておけるところもあるので、親と相談して作っておくのも手だ。
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義母の介護費用は「義母のお金」で賄うと事前に決めていた
筆者の義母は、名古屋から川崎市内の同じ区内に呼び寄せてから約8年経った2024年1月、近居していた義母宅で動けなくなっていた。訪れたヘルパーにより発見され、救急搬送された後、連絡を受けた夫が病院へ駆けつけると、脱水症状と筋力の衰えによるものと診断され、約2ヶ月間入院した。
入院費用は、夫と義姉が義母の部屋から入院に必要な着替えなどを探して持っていく際に、義母の部屋のあちこちから発掘された現金で賄うことができた。
ところが入院中、医師に「もう一人暮らしは難しい」と言われた義母のため、夫は「グループホーム」と「特別養護老人ホーム(特養)」を検討。その間、「介護老人保健施設(老健)」に移ることになったが、入所費用を自動引き落としにする銀行口座を登録する必要があり、登録のための書類には、口座情報欄とともに登録印を押す欄があった。
夫は義母を呼び寄せて以来、義姉と話し合い、義母の介護に関わるものは全て義母のお金で賄おうと決めていた。だから老健の費用も当然、指定するのは義母の口座だ。
見つかった「8本の印鑑」…書類不備で高まる口座凍結のリスク
夫は義母の了承のもと、義母の部屋で預金通帳などを探すと、本人名義の通帳4つと、夫と義姉名義の通帳1つずつ、そして印鑑8本が見つかった。
腰が悪い義母は年々出不精になっていったが、記帳はしていたようで、どの口座がどんな役割で使われているのかを把握するのは簡単だった。だから夫は、老健の費用は年金が振り込まれているメインバンクのものを使えばいいとすぐに判断した。だが、登録した印鑑が8本のうちどれなのかはさっぱりわからない。本人に印鑑8本を見せながら尋ねても「覚えていない」という。
仕方がないので夫は、義母宅にあった印鑑で一番使っていそうな印鑑を押して提出。しかし、老健に入所してしばらく経った頃に銀行から「書類不備」という報せが入り、出し直す必要に迫られた。
あと7本のうちのどれかが正解なのだろうが、失敗を繰り返したら銀行側が不審に思っても不思議ではない。老健からの自動引き落としに関する書類の不備なら、親族の誰かが本人に無断で手続きを進めているか、あるいは、本人が認知症を患うなどして判断能力が低下しているのではないかと思われるかもしれない。すると最悪の場合、本人の財産を守るために口座が凍結される可能性がある。
