がんをはじめ、重病を患った際の心配ごとのひとつに「医療費」に挙げられます。想定より治療が長引くなどして、費用負担に頭を抱える人も少なくありません。そんなときに活用したいのが「医療費控除」です。そこで、看護師FPの黒田ちはる氏が、同氏の著書『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より、医療費控除のしくみから具体的な控除を受けられる項目まで解説します。
「医療費控除」と「高額療養費」の違い
医療費控除とは、高額療養費の自己負担分や健康保険適用外の医療費など、医療費の負担が多い場合に、確定申告を行うことで税金の一部が還付される制度です。
「高額療養費」との違いは?
高額療養費は健康保険の制度のひとつで、所得などに応じて1ヵ月あたりの自己負担上限額が設定されています。限度額適用認定証を申請せずに立て替え払いしている場合や、世帯合算の対象となる場合は、申請手続きを行うことで、実際に支払った医療費の一部が戻ってくるしくみです。
また、高額療養費と医療費控除では「家族の範囲」が異なる点にも注意が必要です。
・高額療養費の合算の対象となる家族
健康保険の種類によって異なり、例えば「国民健康保険」では被保険者本人のみが対象ですが、協会けんぽや共済組合、組合健保では「扶養家族」も対象になります。
・医療費控除の合算の対象となる家族
生計を一にしているかどうかが基準となりますが、同居している家族だけでなく、離れて暮らしていても生活費の援助をしている場合などは対象となります。ただし、二世帯住宅などで住所が一緒だとしても、生活の実態が異なる場合は対象外となることがあります。
医療費控除と高額療養費は、名称や内容が似ているため混同しやすい制度です。中には高額療養費の世帯合算をせずに医療費控除を申請してしまうケースも見受けられます。
医療費控除は、医療費が確定してから申請を行う必要があり、高額療養費の世帯合算よりも先に医療費控除を行うと後から修正申告が必要になることがあります。そのため、特別な事情などがなければ、高額療養費の手続きを終えてから、時系列に沿って進めることをおすすめします。
どのくらい医療費がかかったら、医療費控除が受けられる?
1年間(1月1日~ 12月31日)に「10万円」または「所得の5%」のいずれか少ないほうを超える医療費を支払った場合です(限度額は200万円)。ちなみに、医療費控除とセルフメディケーション税制の両方を申請することはできませんので、ご注意ください。
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適用範囲に要注意…医療費控除の“グレーゾーン”
健康の維持・増進目的は対象外です。医師が治療に必要と判断したかがポイントとなってきます。
がん治療中の相談者から良く聞かれる質問を中心に説明しますが、最終的にはお住まいの管轄の税務署が判断しますので、おおよその目安にしていただければと思います。
■医療費控除の対象になるもの
・セカンドオピニオンの費用
・診療情報提供書の費用
・人工肛門(ストマ)の装具書の費用(医師による「装具使用証明書」が必要)
■注意が必要なもの
通院費・宿泊費
医療費控除の対象。領収書必要なし(ただしタクシーは体調によりバス、電車も難しく、やむを得ないと税務署が判断した場合は対象。領収書が必要)ホテルやウィークリーマンションなどの宿泊費は対象外。
なお、交通費に関しては原則患者本人のみ。患者さんが1人では通院できない場合など理由がある場合は各税務署にご確認ください
国内で未承認や保険診療以外の治療
医師が治療行為として必要であると判断した場合は対象。医師の処方に基づかない代替療法は除く
個室の差額ベッド代
本人や家族の都合だけで個室に入院したときなどは対象外
マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価
対象。ただし、疲れを癒す、体調を整えるといった治療に直接関係のないものは含まれません
乳房再建の費用
術式による。美容目的は対象外
医療用ウィッグ、専用下着など
対象外。ただし都道府県で助成金対応しているところもある
人間ドック
対象外。しかし人間ドックの結果がんが発見され、治療を行った場合は「治療に先立って行われる診察と同様に考えることができる」ため、対象
妊孕性(にんようせい)温存のための卵子・精子凍結保存
対象外。2021年4月から国の研究促進事業としての経済的支援が開始されている
■対象にならないもの
・職場、保険会社などに提出する診断書の代金(治療のために必要ではないため)
・サプリメント
・健康食品



