背中のかゆみでお悩みの50代・60代の女性のみなさんへ。この記事では、皮膚科医の中野貴光先生の監修のもと、しつこい背中のかゆみの原因から、今日からできる対策、そして専門的な治療法まで、わかりやすく丁寧にお伝えします。
この記事3行まとめ
✓背中のかゆみは加齢による乾燥が主な原因ですが、病気が隠れていることも。
✓保湿ケアと生活習慣の見直しが基本ですが、かゆみが続く場合は皮膚科へ。
✓正しい知識で適切に対処し、つらいかゆみから解放されましょう。
背中のかゆみはなぜ起こる?
この記事では、見た目に大きな皮膚変化がない背中のかゆみを中心に説明します。背中のかゆみは、医学的には「掻痒(そうよう)」と呼ばれる症状の一つです。特に50代・60代になると、多くの方がこの悩みを抱えやすくなります。単なる肌の不調と思われがちですが、実は私たちの体からの大切なサインであることも少なくありません。
加齢による肌の変化が大きく関係しており、皮膚の乾燥が主な原因であることが多いです。特に、50代以降の女性は、更年期に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の減少が大きく影響します。
エストロゲンには、肌の潤いを保つコラーゲンやヒアルロン酸の生成を促す働きがあるため、その減少が直接的に肌の乾燥やバリア機能の低下につながってしまうのです。
しかし、中には内臓の病気など、他の原因が隠れている可能性も考えられますので、注意深く自分の体と向き合うことが大切です。
よく見られる身体的症状
50代・60代の女性が経験する背中のかゆみには、以下のような身体的症状が伴うことがあります。ご自身の状態と比べてみてください。
- 背中がカサカサして、白い粉をふいたようになる(鱗屑)
- 無意識のうちに背中を掻いてしまい、線状の掻き傷や赤み、ぶつぶつとした湿疹ができる。
- 下着の縫い目やタグがこすれるだけで、チクチク、ピリピリとしたかゆみを感じる。
- 夜、布団に入って体が温まると、かゆみが強くなってなかなか寝付けない。
- かゆい部分を掻き壊してしまい、じゅくじゅくしたり(浸出液)、ヒリヒリとした痛みに変わる。
- 長期間掻き続けることで、皮膚が厚く硬くなったり(苔癬化)、茶色っぽいシミ(炎症後色素沈着)が残ったりする。
心理的な変化
かゆみは体だけでなく、私たちの心にも静かに影響を及ぼします。
- かゆみが四六時中気になって、仕事や家事、趣味に集中できない。
- 人前で背中を掻くのが恥ずかしく、温泉やプールなど肌を見せる場面を心から楽しめない。
- 睡眠不足が続くことで、日中に強い眠気を感じたり、理由もなくイライラしたり、気分が落ち込んだりする。
- 「何か悪い病気なのでは?」という漠然とした不安が、常に頭の片隅から離れない。
統計データ(厚生労働省調査より)
厚生労働省の調査によると、皮膚のトラブルを抱える高齢者は多く、特に皮膚の乾燥やかゆみを訴える方の割合は年齢とともに増加する傾向にあります。正確な「背中のかゆみ」に限定した統計はありませんが、高齢者の約半数が何らかの皮膚掻痒症に悩んでいるというデータもあり、決して珍しい症状ではありません。
多くの方が抱える悩みであり、生活の質(QOL)を著しく低下させる一因となっていることが指摘されています。
背中のかゆみの原因とメカニズム
主な原因
アトピー性皮膚炎などの背中の皮膚に湿疹などの異常がある場合や、尋麻疹などによるかゆみもありますが、見た目に明らかな変化がないかゆみの場合には、原因は一つではなく複数の要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
1. 生理学的要因
加齢に伴い、皮膚の機能は自然と変化します。皮脂の分泌量が減少し、皮膚の水分を保つ天然保湿因子(NMF)やセラミドなどの角質細胞間脂質も減少するため、肌のバリア機能が低下します。
特に50代以降は、更年期による女性ホルモンの急激な減少がこれに拍車をかけ、皮膚が非常に乾燥しやすい状態(老人性乾皮症)になります。バリア機能が低下した肌は、外部からのわずかな刺激にも敏感に反応してしまい、かゆみが生じやすくなるのです。
これが進行すると、強いかゆみを伴う湿疹(皮脂欠乏性湿疹)に至ります。
2. 環境的要因
私たちが過ごす環境も大きく影響します。特に空気が乾燥する秋から冬にかけては、肌の水分が奪われやすく、かゆみが悪化しがちです。また、夏でもエアコンの効いた室内で長時間過ごすことで、肌は知らず知らずのうちに乾燥しています。
体を洗う際のナイロンタオルの使用や、熱いお湯での長風呂、洗浄力の強い石鹸やボディソープも、必要な皮脂まで奪い、乾燥を助長させる大きな原因となります。
3. 心理社会的要因
50代・60代は、子どもの独立や親の介護、仕事上の立場の変化など、ライフステージの変化が大きい時期でもあります。こうした変化に伴う精神的なストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、かゆみを感じる神経を過敏にさせることが知られています。
また、かゆみ自体がさらなるストレスとなり、「かゆい→掻く→さらにかゆくなる→ストレスが増す→掻く→さらにかゆくなる」という負のループに陥ることも少なくありません。
4. 病気や薬の影響
見過ごされがちですが、背中のかゆみが内臓の病気のサインである可能性もあります。
- 内臓疾患:慢性腎不全や透析中の方、肝硬変や原発性胆汁性胆管炎などの肝臓の病気、糖尿病、甲状腺機能亢進症・低下症、鉄欠乏性貧血などがあると、老廃物が溜まったり、皮膚の乾燥が進んだりして、全身にかゆみが出ることがあります。
- 皮膚の病気:アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎(かぶれ)、じんましん、乾癬(かんせん)、疥癬(かいせん)など、かゆみを伴う皮膚疾患は多岐にわたります。
- 薬剤の影響:高血圧の治療薬(カルシウム拮抗薬など)や利尿薬、一部の抗生物質などが原因で、かゆみが引き起こされること(薬剤性掻痒症)もあります。
発症メカニズム
皮膚の最も外側にある角層は、外部の刺激から体を守る「バリア」の役割を担っています。しかし、乾燥や加齢によってこのバリア機能が低下すると、アレルゲンや化学物質、摩擦などの外部刺激が容易に皮膚の内部に侵入します。これが知覚神経の末端を刺激し、かゆみを引き起こす神経伝達物質「ヒスタミン」などが放出されます。
その結果、脳がかゆみとして認識し、「掻く」という行動につながります。しかし、掻くことでさらに皮膚のバリアが物理的に破壊され、炎症が悪化し、さらにかゆみが強くなるという「かゆみの悪循環」に陥ってしまうというのが、一般的なかゆみの原因としていわれておりますが、実はヒスタミン以外にもさまざまな原因があります。
例えば、ドライスキンのかゆみの原因としては神経線維の表皮内侵入と表皮内神経伸長があり、このためかゆみ閾値の低下が生じ、軽度の刺激により容易にかゆみが惹起されます。
この場合には、直接の刺激によるかゆみとなります。また、老人性乾皮症の場合にはバリア機能そのものは異常になっていないこともあります。なので、抗ヒスタミン薬が効きにくいかゆみもあるのです。
リスク要因
- 加齢や更年期による皮膚の乾燥
- アトピー性皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患の既往歴
- 糖尿病、慢性腎不全、肝疾患、甲状腺疾患などの内臓疾患
- 鉄欠乏性貧血
- 特定の薬剤(降圧剤、利尿薬など)の服用
- 暖房や冷房による空気の乾燥した環境
- 不適切なスキンケア(洗いすぎ、保湿不足)
- 精神的ストレスや睡眠不足
- ウールや化学繊維など、刺激の強い素材の衣類の着用

