「一般的に『癒し』の役割として認識されることが多いペットですが、研究によるとペットは癒しにとどまらず、子どもの『生きる力』を強めてくれるという結果が証明されています」
こう教えてくれたのは、動物介在教育やアニマルセラピーに多く携わる獣医師の吉田尚子さん。
「自分より弱い生き物の存在を知ることで、子どもにいたわりの心が芽生えます。さらに、生き物の世話をすることは責任感を育くみ、避けられない死別の経験は命のはかなさや大切さを学ぶことにつながります。それらすべての体験を通して、子どもの生命力が強くなると考えられているのです」(吉田さん 以下同)
実際に、自閉症の子どもや虐待などにより心的外傷を負った子どもの治療にも、犬を介在としたアニマルセラピーが有益な結果をもたらしているという。様々な動物のなかでも、犬が一番情操教育にふさわしいのだろうか?
「子どもの情操教育に大きく効果を発揮するのは、人に懐く習性のある動物です。なかでも犬は、古代から人間との関わりが深く、子どもと上手に付き合ってくれる生き物。行動学・獣医学的にも生態が熟知されているので、安全性が高いという面でもオススメできますね」
一方で、人に懐かない動物の存在を知ることも情操教育のひとつ。動物園や水族館で、触れられない動物や、そっとしておくべき動物を観察することで、生き物の多様性を知る経験にもなるという。ところで、動物を介した情操教育にもっとも効果的な年齢って何歳くらい?
「脳科学的に子どもの脳の発達に重要なのは、授乳期から10歳にかけてといわれています。ですから、10歳までになるべく多くの動物を知り、触れ合うことが理想的ですね。ですが、この年齢の間に必ずペットを飼わなければならないというわけではありません。適性に飼育されている家庭のペットと触れ合うだけでも、子どもにいい影響を与えることができるはずです」
ペットを飼ってさえいれば、自動的に子どもの情操教育になるというのは安易な考え。親が留守にしがちな家庭で子どもの寂しさを紛らわせることを目的にしたり、世話を全面的に子どもに強いると逆効果になることもある。あくまで親が模範となり、責任を持ってペットに愛情をかける姿を子どもに見せることが、効果的な情操教育につながることを忘れずに。
(波多野友子+ノオト)