ママにとって産後はとても大事
「赤ちゃんが生まれたら、今まで動けなかった分頑張るぞ!」と意気込んでいるママも多いかもしれません。しかし、産後しばらくの期間は「頑張って動いてはいけないとき」です。
産後をどのように過ごすかによって、その後の生活が変わるといっても過言ではありません。では、なぜそんなにも産後の過ごし方が重要なのでしょうか?まずは産後の体の状態について説明します。
体の回復には6~8週間かかる
産後の体が妊娠前の状態に戻るまでの期間を「産褥期(さんじょくき)」といいます。産褥期がどれくらいになるかは個人の回復力により異なりますが、だいたい「6~8週間」が平均的です。
もし事故にあって「全治6~8週間です」と言われたなら、かなりの重傷であることが想像できるのではないでしょうか?
「産後の体は交通事故にあったような状態」と言い表されることがありますが、産後のママの体はそれほどのダメージを負っているも同然なのです。
万全でない状態で無理をすれば、不調が長引いてしまったり、ずっと後になってからダメージが表面化したりことも考えられます。産後の十分な休養は、長い育児に臨むためにも欠かせないことです。
産後に起こる体と心の変化
続いて、産後の心と体に起こる主な変化について把握しておきましょう。ただし、産後に見られる当たり前の症状とはいえ、「つらいのは産後ならみんな同じ」と自己判断してしまうのは危険です。症状がひどかったり不安があったりする場合には、遠慮せずに医師に相談しましょう。
子宮の収縮
出産を終えると子宮の収縮が起こり、大きくなった子宮が元の大きさに戻ろうとし始めます。この子宮収縮のときの痛みは、「後陣痛(こうじんつう)」と呼ばれるものです。
「重い生理痛のような感覚」といわれますが、人によっては陣痛よりもつらい場合もあるでしょう。「内蔵を無理矢理押されるような痛み」「下腹部を引っ張られているような痛み」と表現する人もいます。
産後3日間くらいで痛みのピークが過ぎ、1週間もすると落ち着く人が多いでしょう。長い人で1カ月ほど違和感があるかもしれませんが、「いつの間にか忘れていた」というケースがほとんどです。
悪露
産後しばらくの間は、下腹部からの出血が続きます。これは「悪露(おろ)」と呼ばれるもので、産後の子宮から不要なものが排出される自然な現象です。
産後数日は特に量が多く、産褥パッドやお産パッドといわれる大きなナプキンを当てて過ごします。レバーの塊のようなものが出てくることがありますが、続くのでなければ慌てることはありません。
始めは鮮血だったものが1~2週目あたりから次第に褐色になり、3~4週目には黄色から白いおりものへと変化していきます。6週目くらいになると、悪露が落ち着くケースが多いようです。自然分娩に比べると、帝王切開の方が長期化することがあります。
ホルモンバランスの乱れ
産後に心身が不安定になるケースは、珍しくありません。原因は「ホルモンバランスの乱れ」です。妊娠すると、女性の体は必要なホルモンを分泌させて妊娠を継続させようとします。
出産時にホルモンを作り出していた胎盤がなくなり、次は「母乳を分泌させるためのホルモン」に切り替わるのです。出産を機に体内のホルモンバランスが急激に変化します。
体の症状としては、肌荒れ・不眠・抜け毛・髪質の変化などがあげられるでしょう。心の症状としては、イライラ・不安感・孤独感・頭が働かないといった変化を感じるかもしれません。
精神的な症状は「マタニティーブルーズ」と呼ばれ、2週間程度でおさまることがほとんどです。それ以上続く場合には「産後うつ」も考えられるため、医師や保健師へ相談することをおすすめします。
産後の過ごし方
「ゆったり過ごす」といっても、人によって「ゆったり」に抱くイメージは様々です。具体的にどの程度の休養が必要なのか、産褥期の週数ごとの過ごし方を見ていきましょう。
産後1~2週間目はお世話以外は休む
産褥期のなかでも、特に産後1~2週目の休養が重要です。出産の疲れもまだ残っているため、「ほぼ寝たきりの状態で過ごせるのが理想」といえます。
たいていは1週間程度で退院しますが、家に戻っても家事をするのはまだまだ先のことです。授乳やおむつ替え以外は、できる限り横になって体を休めましょう。
動こうと思えば動けるため、「これくらいなら…」と手を出してしまいたくなることもあります。パパや家族がせっせと家事をする姿を見て、申し訳なく感じるかもしれません。
しかし、「頑張るべきとき」は、これから先の子育てで続きます。そのときのために、「回復に努めることが最優先すべき仕事である」と肝に銘じておきましょう。
産後3週間目は少しずつ家事を行う
産後3週目に入ったら、体調を見て体を起こす時間を増やしてもよいでしょう。軽い家事をしても構いません。ただし、3週目はまだ「休養が基本の生活」を続けます。
昔から産後3週間(20日間)が過ぎたころを「床上げ(とこあげ)」と呼んでいました。床上げとは産後に敷きっぱなしだった布団から出て、家事を始めることをいいます。
つまり、産後3週目は、まだ寝て休養することがすすめられる時期です。家事といっても、洗濯物をたたむくらいの「座ってできて負担の軽いもの」に限ります。疲れを感じたらすぐに休めるよう、リビングに横になれるスペースをつくっておくと便利です。
産後4週間目は1カ月健診がある
産後4週目は「普通の生活に戻るためのリハビリ期間」です。家事もまだ軽いものだけにとどめ、特に重い物を運ぶような作業は避けましょう。
体調がよければ家の中を動き回っても大丈夫ですが、立っているだけでも負担がかかります。掃除や料理をするとしても、長時間かかる作業はおすすめできません。
赤ちゃんのタイプにもよりますが、小刻みな授乳や寝かしつけで子育ての疲れもたまる時期です。赤ちゃんが眠ったら、なるべく一緒に寝ておくとよいでしょう。
産後4週が経過したころに、医師に赤ちゃんとママの状態をチェックしてもらう「1カ月健診」があります。ママの体調に問題がなければ、湯船に入ったり性生活を再開したりすることも可能です。
産後5〜8週間は徐々に普段の生活へ
1カ月健診で問題なくても、いきなり妊娠前と同じ生活というわけにはいきません。産後5~8週目の間に、少しずつできることを増やしていきます。
外出も散歩ついでの買い物からスタートして、「8週目が過ぎるころ」に妊娠前の生活に戻ることを目標にするとよいでしょう。
産褥期が終わるころには出産時のダメージはだんだんと気にならなくなっていきますが、完全に妊娠前の体力が戻ったと実感できるまではもう少し時間が必要です。筋力や免疫力の戻りには個人差があるため、無理はせずに自分のペースで体調を整えていきましょう。
産後ママへのアドバイスは?
「休むのが大事」とわかっていても、動けない時期はもどかしさがつのるでしょう。効率的に回復するために、休養しながらできることを紹介します。
産後の体に負担をかけずに家事や育児をこなすためのサポート制度や、便利グッズについても知っておきましょう。
バランスのよい食事を心がける
栄養バランスの整った食事は、妊娠前の健康な体を取り戻す助けとなります。産後に積極的に摂っていきたい栄養素は次の5種類です。
・葉酸:ほうれん草・ブロッコリー・納豆など
・鉄分:レバー・卵・ひじきなど
・ビタミンC:緑黄色野菜・柑橘系の果物など
・たんぱく質:肉類・魚類・卵・大豆など
・カルシウム:牛乳・煮干し・小松菜など
産後は「鉄分」を多く摂って貧血を防ぎます。「ビタミンC」は鉄分の吸収を増進させる働きがあるため、なるべく一緒に摂るようにするとよいでしょう。
「葉酸」も、血液中の赤血球の形成に役立ちます。妊娠中だけでなく、授乳期にも引き続き取り続けたい栄養素です。「たんぱく質」はパワーの源であり、体づくりに欠かせません。
また、妊娠期から授乳期には、普段よりも多くの「カルシウム」を必要とします。もし母乳育児をするのであれば、より意識してカルシウムを多く含む食品を摂るように心がけましょう。
産褥体操が回復をサポート
産後1~3週目は休養がメインですが、完全に寝たきりだと筋力が弱ってしまいます。そこで、無理なく体を動かす「産褥(さんじょく)体操」を取り入れてみましょう。
まずは腹式呼吸・胸式呼吸や、足首をひねるなど「寝たまま体を動かす」ことから始めます。肛門のあたりに力を入れるのを繰り返す運動も、骨盤底筋のトレーニングにおすすめです。
産褥体操は、「動かして心地よいと感じる強度」で1〜3カ月続けるとよいでしょう。無理のない運動は血行の促進や筋力の回復サポート、便秘へのアプローチが期待できます。
便利グッズやサービスを利用する
パパの仕事が忙しい・実家が遠いといった事情からサポートを得るのが難しいケースもあるでしょう。ママの回復を第一優先にするために、専門のサービスを利用することもおすすめです。
週に何度か「家事代行サービス」を利用すれば、家の中を清潔に保てます。「産褥シッター」のような産後サポートを利用すれば、赤ちゃんのお世話を任せることも可能です。
「他人がいると落ち着かない…」というのであれば、優秀な機能を備えた便利家電に頼ってみてはいかがでしょうか?
洗濯から乾燥までできる「全自動洗濯機」や、決まった分量を入れておくだけでおいしいご飯が作れる調理器具もあります。「お弁当や料理キットの宅配サービス」も併用すれば、家事の負担が大きく軽減できるでしょう。
まとめ
産後のママは、パっと見ではとても元気に見えるかもしれません。しかし本当のところは、心と体に起こる目まぐるしい変化で疲れきっています。
妊娠中は入院準備や陣痛など赤ちゃんを産むまでのことに気が取られがちですが、産後の過ごし方を具体的にイメージしておくことも同じくらいに大切です。
産後に安心して休めるよう、周囲の理解やサポートを求めることも必要でしょう。長く続く育児生活に向けて体調を整えるためにも、パパや家族と話し合っておくとよいかもしれません。