れんこん畑のシーンは歩くのも一苦労 撮影を通して農業の大変さを実感
この作品の撮影をしていたのは、2019年9月頃。それまで、れんこんについて考えたこともなかったですし、正直、水中で育つことも知らなかったですね(苦笑)。
れんこん畑のシーンは、たっぷり水が張ってある泥の畑の中、胸あたりまで浸って演じなければいけないので、最初は歩くのさえ大変でした。べた足で歩いてしまうと長靴が埋もれて抜けなくなってしまうので、つま先立ちで歩かなければいけないんですよね。でも、子どもの頃、砂場で泥遊びをしていたのを思い出して、泥で汚れていくのも楽しかったです。時々、スタッフさんが転んで泥まみれになると、みんなで笑ったり。撮影後半には慣れてきて、畑の中で座ったり、心地良い姿勢もとれるようになりました。
畑での撮影は4、5日でしたが、実際、農家の方はこうした畑作業が続くので、足腰が強くないといけないし、本当に重労働だと思いました。
今回の撮影を通して感じたのは、自然と一緒に歩んでいく農業という仕事は、本当に大変だということ。休みの時期でも、何か起きるんじゃないかと思うと、きっと心がそわそわしますよね。
お話を伺った農家の方は加賀れんこんの価値をもっと高めるために、新しい価値観で農業に取り組もうとしているアグレッシブな方でした。常に新しいことにチャレンジしようとする姿は、年齢問わず、かっこいいなと思いましたね。
農業に興味を持っている人の背中を押せるような作品に
この作品のテーマの一つは、農業の跡継ぎ問題です。僕が演じた良一は、父親が倒れたことで、実家の畑を引き継ぐか売却するかの選択を迫られるんですよね。きっと、現実が急に押し寄せてきた感じなんだろうなと。いま、自分のやりたいことができているのは、両親が健在でいてくれるからこそ。現実というよりは、夢を見ているような感じなのかもしれないですね。もし、両親が働けなくなってしまったら、環境も自分がやるべきことも変わってくるんだろうとは思っています。
映画の中には農業で活躍する女性、通称「農業女子」も登場します。農作業用の洋服などがかわいいと、農業女子もより輝けますよね。町の開かれた場所で農業ができたり、農業が出会いの場になれば、もっと若い人が集まるのかもしれないですね。そうした問題を題材にしているので、農業に興味を持っている人の背中を押せるような作品になればいいなと思っています。
この映画は、先日亡くなられた綿引勝彦さんの遺作でもあります。現場で感じていたのは、綿引さんのお芝居にかける魂の情熱。ずっと熱く向き合って演じてこられていたからこその雰囲気がビシビシと伝わってきて、本当にすごいなと思いましたね。
今回、演じる上でとくに気を遣ったのは、必然的なことが起こるシーン。より真実味が出るように、時に監督とけんかになるくらい話し合って、意識的に細かく、センシティブに演じました。
心温まるヒューマンストーリーの中には「こんなことがあったら素敵だな」と思えるシーンもあります。はい、れんこん畑での出来事です。自分は映画を観ている時、夢がある場面でわりとキュンとしちゃうタイプです(笑)。この場面、そんな風に楽しんでもらえたらうれしいです。
映画『種まく旅人~華蓮(ハス)のかがやき~』
配信: たべぷろ