●ママは頑張っている! 育児や家事を任せすぎるのは不公平
「私が3年間の教師生活を経験して痛烈に感じたのは、子どもにとって一番大切なのは、やはり家庭であるということ。家庭が揺らぎ、親が自分のことで精一杯で子どものことに目が向けられていない…そういったご家庭にいるお子さんは、いくら教師が奮闘しても、なかなか落ち着いて勉強する態勢に入ることができない。自分にも自信が持てないし、何か新しいことにチャレンジしようという気持ちも持ちづらくなってしまいます。これまで、そんな例をいくつも見てきました」(乙武氏 以下同)
教員生活を通して、本来、子どもたちがみな同じスタートラインに立たなければならないはずなのに、生まれながらにして大きな差がついてしまっていることを認識させられたという。
「スタートラインを公平にするためにはどうしたらいいのか? その格差を、少しでも埋めていくインフラになるのが地域社会だと思いました。地方の地域社会はまだまだ機能していて、町ぐるみで子育てができているところがたくさんあるのかもしれません。でも、都心部ではなかなか難しい。産後うつや育児ノイローゼ、また、それらが原因となって起きる虐待といった残念なニュースが相次ぐなか、その背景になっているのが、誰にも頼れないお母さんの孤立。“まちの保育園”が家庭と地域を繋ぐ役割を果たすことで、お母さんの孤立や子育て世代の苦悩が少しでも和らげばいいなと思います。このように、都内でも、育児の悩みや愚痴を共有するコミュニティが芽生えつつあるので、お母さんたちには絶対に1人で抱え込まず、いい環境を見つけてほしいと願います」
これまでも、テレビや自身のツイッターなどで、全国の悩めるママたちに優しいエールを送り続けてきた。
「単純に不公平だなと思うんですよ。共働きが増え、家事や育児も分担されてしかるべきなのに、いまだ家事・育児は女性が担当している。例え分担したとしても、8対2といった比率では不公平ですよね。これからは、男性側が認識を改めて行動を変えていくべきだと思います。昨年末に話題になった“選択的夫婦別姓”の話もまさにそうで、特に不便を感じない、必要性がないというのはあくまで男性側の意見であって、困っていると発信している女性の側に寄り添っていくことが必要だと思うんです。家事や育児もこれと同じで、夫は、たまにちょこっと手伝って、“俺はイクメンだ”とか言ってるんでしょうけど(笑)、毎日仕事をしながら育児や家事をこなしている女性の負担に、しっかりとアンテナを張ってほしいなと思います」
育児には大変な困難がつきまとうもの。夫はどんなに疲れていても、妻と向き合い、共に子育てに悩む姿勢が大切だと乙武氏は語る。愛する子どもたちを妻任せにせず、どういう方針でどのように育てていくかは、夫婦2人で共有するべきなのだ。
(撮影/島田香 取材・文/蓮池由美子)