●子の自己肯定感を育むために必要なこと
「私自身、教育に携わる身として、3児の父親として、何より一番大切にしているのが、子の“自己肯定感を育む”ことなんですね。自分は価値のある人間である、かけがえのない存在であると思える気持ち。自己肯定感が高ければ高い人ほど、人生の困難に立たされたとき、それを乗り越える力が強いと感じています。そして、その自己肯定感を育むには、親や大人たちが、きちんと子どもたちに愛情を伝えていくことが大切だと思うんです」(乙武氏 以下同)
教員生活のなかで、親の愛情が、想像以上に子どもたちに伝わってないことを思い知らされたという乙武氏。その経緯を語ってくれた。
「小4の担任をしていた時、学校で10歳を記念して、“2分の1成人式”という授業を行ったんですね。最後にサプライズで、保護者の方からの手紙を子どもたちに読んでもらったんです。予期せぬ手紙に、子どもたちは感動して、なかには泣き出す子もいるんですよ。子どもたちの感想にも、“お父さんやお母さんにこんなに大切にしてもらっているなんて思わなかった”“ママが普段から口うるさいのも、僕のことを思っているからだとわかりました”と書いてあって…。親からすると“親が子を愛するのは当たり前”という価値観がありますが、子どもたちはまだ親になっていないので、それがわからない。親の愛情って、意外と子どもたちに伝わりにくいものなんだと感じました」
親のお説教も、子どもが「私はお母さんに愛されている、大切にされているんだ」という実感が持てて初めて効力を発揮するという。愛情表現抜きにいきなりお説教から入っても、それは逆効果にしかならない。
「愛情を伝えるのは照れくささもありますが、パイプが詰まって通じていないとしたら非常にもったいない。照れずに、“愛してるよ”“生まれてきてくれてありがとう!”と、愛情をしっかり伝えていってほしい。思春期にうざがられたら、また違う形で伝えていけばいいと思います。親の愛情が子の安心へとつながり、いじめや就職など、様々な局面で困難に直面した時、必ずや力になるはずです。私が多くの方から、『乙武さんは重度の障害があるのに強いですね、明るいですね』と言っていただけるのも、やはり両親が育んでくれた自己肯定感のおかげだと思うんです」
乙武氏が翻訳を担当した絵本「Zero」でも、個性そして自己肯定感の大切さが描かれている。
「『Zero』は、私がこれまで伝え続けてきた“多様性”について書かれている絵本です。自分の特性に悩みを抱えているなかで、自分にしかできない何かがあると気づいたとき、人は自信が持てるようになる。日本って同調圧力が強いですよね。だから、他人との違いが不安で隠したくなるものですが、人が本当に強くなるには、自分と他者の違いを受け入れ、個性を生かして、自分にしかできない何かに気づくことだと思います。物語に登場する“0”の成長と変化を通じて、ご自身の違いや個性と向き合ってほしいですね」
自己肯定感を育めば、人としても強くなり、幸せな人生を送っていける…わが子をそんな強い大人に育てたいと思ったら、今この瞬間から、親の愛情を言葉にして伝えていくことが必要だ。
(撮影/島田香 取材・文/蓮池由美子)