金を貸していたご近所さんは「アレは演技ですよ」
しかし、桐生市内の商店主はこれをテレビのニュースで見ながら言った。
「あぁ、またやっているよ」
この商店主は、事件の4年前まで近所に住んでいたミツに金を貸して、踏み倒されているのだ。
「アレは演技ですよ。とにかく、口はうまいし愛想はいいし、あの芝居にウッカリ乗せられたらたいへんだよ。刑事さんだってだまされかねないね」
あきれかえるように続けた。こと借金をするにあたって、ミツは天賦の才を備えていたという。
「まず、小金をためていそうなひとり暮らしのお年寄りに近づくんだ。そして、買い物や洗濯をしてあげて親しくなる。それからさりげなく借金を頼むんだが、最初の1、2回目はちゃんと返すんだね。それも、両手をそろえて頭を畳にすりつけて涙を流しながら『どうもありがとうございました』とやるんだよ。これには貸したほうもいたく感激しちゃう。それで、次も貸しちゃうんだけど、これが一番金額が大きくて結局、返ってこないんだよ」
こうして踏み倒された金額は人それぞれだったというが、大方が2,000〜3,000円から、3〜4万円ほど。一件あたりの金額はさほど大きくないものの、近所を総なめにしているだけに、チリも積もれば大金になる。
借金1000万円を抱え、静岡に夜逃げ
栃木県生まれのミツは中学を卒業して桐生市の工場に就職。ここで知り合った男と結婚し、ほどなくして子どもが産まれ母親となる。「如才なくて交際上手、子ども好き」な女性だったといわれるが、鉄工所や食料品店などにパート勤めするようになってから、生活ぶりが変わった。
まず服装が派手になり、パチンコ屋に出入りするようになる。娘の成人式には分不相応な晴れ着を購入。そのうえ「自分で働いて自分で返せる」と、夫に内緒で知人からも金を借りまくった。先の商店主も、そのひとりだろう。
さらにはサラ金にも手を出す。ところが、ついにこれに気づいた夫から、ミツは離婚を言い渡されてしまったのだ。
夫は娘を連れ、家を出て行ったが、ミツはすぐにタクシー運転手の男と再婚する。この男にも2人の子どもがおり、そしてミツと同じように借金があった。「彼女に借金があることを承知の上」での再婚だったというが、雪だるま式に増え続ける借金は、事件を起こす83年の2月には群馬県内のサラ金業者39社500万円に上り、知人や他県のサラ金からの借り入れも含めると、約1000万円にもなっていた。
激しい取り立てに、夫の子どもを、夫の前妻の実家に預け、夫婦2人で静岡県三島市に夜逃げする。偽名で家を借り、ゼロからの再出発を果たす準備を静かに整えた。
配信: サイゾーウーマン