万引き娘を、驚き、失望、恥ずかしさが混在する複雑な表情で見つめる父親
件の自転車を停めた建物とは違う場所にお住まいのようで、ひとつ隣の棟の入口から自室に向かった森田さんは、玄関口から大声で娘の名前を連呼すると、引っ張るようにして連れ出してきました。うなだれていて、はっきりと顔は見えませんが、間違いなく犯人の女です。
「この人です」
当たりであることを伝えると、すぐに女の脇を固めた警察官たちは、放置された盗品のところまで女を連れていきました。そこで犯行の認否を問われた女は、うなだれたままダンマリを決め込んでいます。
「やったなら、やった。やっていないなら、やっていない。はっきり言いなさい!」
「……ごめんなさい」
父からの取り調べに、勝るものはありません。ごめんなさいをしたと同時に泣き始めた女は、ぼろぼろと涙を流しています。驚きと失望、それに恥ずかしさが混在する複雑な表情で娘を見つめる森田さんは、両拳に力を入れて、何かを堪えているように見えました。
「なんで、そんなことしたんだ?」
「わかんない……」
「自転車のカゴに入れたのは、なんで?」
「怖くなったから……」
今回の被害は、計4点、合計で1,500円ほど。定時制高校の3年生だという少女に前歴はなく、森田さんがガラウケとなり商品代金も支払うというので、一度店に戻って店長に謝罪し、以後の判断を仰ぐこととなりました。
事務所に到着して、店長が現れるなり森田さんが土下座をして、娘も後に続きます。
「突き飛ばして逃げたのは悪質だから。どんなに謝られても被害届は出します。もう、やめてもらえますか」
親娘の懇願は叶わず、事件処理されることになった少女は、警察署に連行されることとなりました。森田さんは後で迎えに来るよう警察官に指示され、一旦は家に帰るようです。商品代金の精算時、森田さんに釣銭を渡す店長が、嫌味たっぷりに言いました。
「ポリ袋の使い方も、娘さんにご指導願えますか。ウチは出入禁止だから、関係ないかもしれないけど」
残業することなく帰宅して、入浴時に痛むお尻を確認すると、うっ血して真っ黒になっていました。病院で診断書を取るのは面倒だし、大事にせぬよう暴行についての被害申告はしていないので、泣き寝入りするほかありません。トイレに入るたび、両拳を握りしめた森田さんの姿を思い出し、痛みを堪える次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)
※本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
『伊東ゆうの万引きファイル』https://ufile.me dy.jp/
配信: サイゾーウーマン
関連記事: