女万引き犯に鮮魚部長が「いつでもうまいもん食わしたる」
慌てて手を放し、目の前の電話を使うことなく応接室を出た店長は、自分の席から通報を始めました。店長に代わって、鮮魚部長が結実さんの脇に立つと、すかさずに手を握られて縋りつかれます。
「おい、姉ちゃん。かわええ顔して、なんで盗ったん? 腹すいとったんかい?」
若くきれいな女性に手をつないでもらえたことが、よほどうれしいのでしょう。うるうるとした目で見つめる結実さんに、目じりを下げて声をかける鮮魚部長の顔は別人のようで、言ってしまえばかつてアジア諸国の夜の街で見かけられた日本人にみえました。
「おっちゃんに言ってくれたら、いつでもうまいもん食わしたるのに」
下心全開で口説いておられますが、日本語が理解できない様子の結実さんは、鮮魚部長の手を握ったまま祈るようにしています。
「これは、身柄(逮捕のこと)になるな。保安員さん、お時間は大丈夫ですか?」
しばらくして臨場した警察官は、被疑者が外国籍のためか逮捕する気満々でおられましたが、鮮魚部長の一言で状況が一変します。
「反省しているようやし、被害届は出さんでおきますわ」
結局、盗んだ商品を返却したうえで、彼女の居住確認をすることで事態は終結。日本語がわからないため状況を飲み込めず、警察官の手を握って泣き咽ぶ結実さん。それを見る鮮魚部長は嫉妬に燃えているようで、店を後にするまで粘着質な視線を送り続けておられました。
「Gメンはん、おつかれさん。今度、あの子見かけたら、ワシに連絡してくれるか」
「はあ……」
「メシ食わしたるって約束してもうたから、もし来たら頼むわ」
男はいくつになっても若い女性に弱く、手を握られるだけで、その立場すら忘れてしまう生き物のようです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)
本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
配信: サイゾーウーマン
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