「今のいじめは、とてもわかりにくいというのが現実です。被害者を一方的に攻撃するのではなく、被害者を挑発して“これはいじめじゃない。ケンカだよ? イジりだよ?” というカタチにもっていくんです。そして、“空気が読めない奴、察することができない奴”と、被害者にラベリングを貼って、空気の読めない奴に教えてやっているだけ、少しこらしめてやっているだけ…という様相をとるのです。」(増田先生 以下同)
つまり、自分たちのいじめを正当化することで、加害者はいじめている自覚もあまりないという。しかし、いじめは被害者が“いじめ”と思った時点で、もういじめなのだ。
「よく子どもたちは“あの子ムカつく”という言葉を口にします。6年生に“あの子のどこがムカつくの?”と理由を聞くと、“ムカつくっていうのは気持ちの問題だから、そこに理由はいらないんだよ”と答えたんです。つまり、“なんかムカつく…”それでもいじめの標的になってしまう。いじめの入り口はすごく低くなっているんです。さらに“ホントムカつくね”と、周りの子が同調することで、たちまちいじめは広がっていく。だからいじめがいつまでたってもなくならないんですよ。そして、これは誰でも加害者になりうるということを意味しているんです」
さらに、現代のいじめの背景には、“スクールカースト(子どもの学級のなかの階級)”の問題も大きいという。
「人気のある子、スポーツのできる子は上位、例えば女の子なら男の子にモテる子は上位…のように上位と下位が線引きされるんです。例えば、こんなことがありました。ある日、上位の子と下位の子がたまたま同じ服を着てきたんですね。そうしたら、上位の子は、どうしたと思いますか? 自分の服を捨てたんです。下位の子なんかと同じ服を着ていたら、自分の値打ちが下がると…。これもいじめですよね? スクールカーストは頻繁に入れ換わるので、いじめの加害者と被害者も頻繁に入れ換わるのです」
いじめは、小学校低学年でも起こりはじめるが、高学年になるとより増えていくという。
「思春期になって心が不安定になるとともに、いろんな矛盾が子どものなかに襲ってくるんですね。学校が管理的だったり、威圧的だったり。そして、家庭教育が子どもを追い込むケースも多いんです。親御さんから“勝たなきゃダメ!”“負けちゃいけない!”なんでもできなきゃいけない!”という教育を受けていると、いじめに発展しやすいんです」
その影響で今、子どもたちは人を多面的に見ることができない。“できる”“できない”が大きな価値基準になってしまっているのだそう。
「勝つということは、勉強もできなければならない、スクールカーストの上位にもいなければならない。子どもにとってものすごく苦しくてプレッシャーなんですよ。そのストレスがいじめにつながるんです。自分のストレスのはけ口なんですね。わが子がいじめの加害者にならないためにも、どうかお子さんのありのままを受け入れ、愛し、見守ってあげてほしいと思います」
加害者はなぜいじめるのか? その原因の究明なくしていじめを撲滅することはできない。親や学校、社会の大人たちが、“いじめをなくそう”というスローガンを掲げて満足するのではなく、現代の子どもたちが抱える本当の心の闇とじっくり向き合うことこそが、何よりの解決への道なのではないだろうか…。
(構成・文/横田裕美子)