家賃の値上げはどこまで可能?大家さん必読「合法的な家賃値上げ」の方法

家賃の値上げはどこまで可能?大家さん必読「合法的な家賃値上げ」の方法

「そろそろ家賃を値上げしたいが、借主が日頃から家賃を滞納しているので、値上げしたら夜逃げされるのではないかと不安だ」

「入居者から文句を言われないよう、合法的かつスムーズに家賃を値上げする方法が知りたい」

そんな悩みを抱えている賃貸物件の大家さんはいませんか?

大家さんにとって、「家賃をいつ、どのくらい値上げするか」は非常に判断が難しい問題ですよね。

たとえば、「急用でお金が必要になったから、来月から一律3万円値上げしよう」と思っても、それをそのまま実行することはまずできません。

家賃の値上げには法律にのっとった手続きと適切なタイミングが不可欠だからです。

そこでこの記事では、以下の内容を中心に「家賃を合法かつスムーズに値上げする方法」を詳しく紹介します。

  • 家賃値上げに伴い起きる可能性のあるトラブルとは?
  • 家賃値上げに伴うトラブルを回避する方法
  • トラブルが避けられない場合の解決方法
  • 家賃値上げを強行するとどうなるか?

家賃の値上げに伴うトラブルを回避するためには、法律的な対応はもちろんのこと、借主の心理をふまえた粘り強い交渉が欠かせません。

この記事ではそういった交渉面のポイントにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。 

1、家賃を値上げすると起きる可能性のある4つのトラブル

借主にとって家賃値上げほどイヤなニュースはありません。大家さんは当然それを理解しているので、唐突な値上げをしないよう配慮することでしょう。

しかしそのような配慮も虚しく、次のようなトラブルが起きる可能性があります。

(1)値上がり分の支払を拒否される

家賃を値上げされた借主が最初に示す反応が「値上がり分の支払拒否」です。

元の金額に対して値上げ幅が大きいほど支払拒否の可能性は高まります。

支払いを拒否されてしまった場合、強制的に取り立てようと思えば法的手続きを取るほかなくなってしまい、大きな負担となります。

また、下記に述べるような合法的な値上げでないと、法的手続きにおいても値上げ分の賃料を確保できない可能性があります。

(2)値上がり分だけでなく全額を支払い拒否される

滞納をくり返すような悪質な借主だと、家賃値上げの意向を伝えただけで強く反発し、家賃全額を支払拒否してくるおそれがあります。

このことを理由に賃貸借契約を解除できる可能性はありますが、事実上のトラブルが続く上、大家さんとしては支払い拒否をされている間、その借主から1円も入ってこないということになってしまいます。

(3)値上がりを理由に解約されてしまう

値上げのタイミングが契約の更新時期に重なると、「もっと安い他の物件を探そう……」と考える借主に契約を解除されてしまう可能性があります。

次の借主がすぐに見つかるのであればいいですが、必ずしもそううまくことは運ばない可能性があります。

そうすると、次の借主が見つかるまでの間、賃料収入が入ってこなくなってしまいます。

(4)解約の手続きどころか夜逃げされてしまうリスクもある

これは稀なケースですが、借主が家賃滞納の常習犯である場合、家賃の値上げがきっかけで夜逃げをしてしまうことがあります。

常習的に家賃滞納するような借主は、契約を反故にすることへの抵抗感が少ないため、「どうせ滞納分も払えないのだから、値上げ交渉で裁判沙汰になる前に逃げてしまえ!」と自暴自棄になってしまうことがあるのです。

2、トラブルを避けつつスムーズに家賃値上げをするための合法的な手順

ここまで説明した4つのトラブルを回避しつつ家賃を値上げするためには、賃料増額に関する法の規定をしっかり理解し、合法的な手順にのっとって借主と交渉する必要があります。

(1)家賃値上げに必要な条件について法律はどう定めているか

大家さんは自由に家賃を値上げできるわけではありません。

借地借家法32条1項は、値上げを請求できる条件として次の3つを挙げています。

  • 土地建物に対する税金などの負担が増えた
  • 経済事情の変動(土地建物の価格上昇など)
  • 近隣の同じような物件の家賃よりも安すぎる

(2)家賃値上げには「正当な理由」が必要

借地借家法第32条が定める上記3つの条件は「例示」にすぎません。

「家賃を値上げするには、何らかの正当な理由が必要だ」というのが同条の趣旨です。

したがって3つの条件以外でも、たとえば「ひどい雨漏りが発生したので、修繕費用をまかなうためにも家賃を値上げする必要がある」といったやむを得ない事情があれば、正当な理由として認められる可能性があります。

(3)3つの条件と正当な理由以外にも必要な2つの条件

家賃の値上げが法律上有効であるためには、前述した正当理由以外に、「相場より高すぎないこと」「当事者の合意があること」という2つの条件が必要です。

①相場より高すぎないこと(適正な金額であること)

家賃には相場があります。同じ地域、同じような構造・規模の物件は、おおむね同じような家賃で賃貸に出されているわけです。

この家賃相場を大幅に超える値上げは、適正な金額ではないため認められません。

たとえば、大家さんの言い分が「今の家賃5万円は近隣の相場よりも安いから20万円に値上げする」というものだとしましょう。

もしその物件の周辺地域の家賃相場が6万円だとしたら、この値上げに正当な理由はあると言えるでしょうか?

7万円への値上げならOKかもしれません。

しかし20万円に値上げするとなると、相場を大きく超えてしまうので、適正な金額とは言えなくなる可能性があります。

このように、どのような理由で値上げするにせよ、相場よりも高すぎない、適正な金額であることが必要なのです。

②家賃値上げについて借主との合意があること

これが最も重要なことですが、裁判によって法的に強制するのでなければ、家賃の値上げには、大家さんと借主の「合意」が不可欠です。

大家さんが正当な値上げであるとして一方的に借主に通告をしても、借主がこれを拒めば、合意は成立しません。

そのような場合に、賃料の増額を達成するには、原則として法的手続きが必要になります。

(4)「賃料を値上げしない特約」に注意

借地借家法第32条1項は、但書で「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」と規定しています。

大家さんと借主が合意するなら、「家賃を値上げしない」とする特約も有効なのです。

賃貸借契約をする際にこの特約をつけてしまうと、家賃を値上げしたくてもできなくなるので注意しましょう。

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