料理に関するちょっとしたお悩みに対して、解決方法をわかりやすく教えていただく料理研究家・井上かなえ(かな姐)さんのフーディストノート公式連載。今回は、家庭料理の定番でありながら思ったような味にならなかったり煮崩れしてしまったりすることが多い「煮物」を上手に作るコツを教えていただきます。
こんにちは!井上かなえです。
わたしは料理が趣味であり、仕事でもあるので、よく「いつもおいしいものを食べられるご家族がうらやましいです!」とお声がけいただくのですが、
とんでもございません!!!!!!
ひとつの食材にハマってしまうとそればかりだったり、もっとおいしくするために次はこうしてみよう!と、すぐにやってみたくなる性格なので、家族はもう何日も同じような料理を食べさせ続けられることがあります。
「もう飽きてきたよ」と言う代わりに、娘たちはその料理がいかにおいしかったか、逆にダメだった場合はどこがダメだったかを詳細に語ってくれるようになった気がしますが、みなさんは最近、ご家族に料理の感想を聞いてみたことはありますか?
毎回聞かれると嫌がられるので、ほどほどにしつつ(笑)、たまには聞いてみるのも楽しいものです。
さて!前回のオンライン料理教室では豚こま肉を上手にほぐす方法について書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
お肉を広げて料理しないといけないなんて、って思われた方もいらっしゃったのではないでしょうかね。
さて、今月のご質問はこちらです。
煮物によくあることなのですが、レシピ通りに調味料を入れても自分の好みに合わないせいか、味が薄かったり濃かったりします。しょっぱすぎる、甘すぎる、煮汁でベちゃべゃまたは煮汁が少なすぎて焦げつきそう…など。こうした時の修復方法を教えてください。
煮物などの甘い味付けが苦手で、砂糖、みりんを両方使うレシピだと大体は味見すると「甘ッッ」となります。かといって砂糖を省略すると物足りない感じ…。やさしい甘さでおいしくするにはどう工夫したら良いでしょうか?
煮物に関するお悩みです。
煮物に関してなのですが、これはほんっとうにレシピ通りにやってもいまいち味が決まらないことが多い!
なぜならそれは…使う食材(お肉やお野菜)の味に左右されやすいお料理だからなんです。
特にお野菜は季節によっても種類によっても、もしかすると産地によってもその味わいも水分量も様々で、一口に「じゃがいも」といっても男爵、メークイン、キタアカリ、インカのめざめ、それ以外にももっともっとあるし、季節によっては皮ごと調理ができたり、水分が多く含まれているから出汁の量もそれに合わせて減らさなくちゃいけなかったり。
まさに素材を見ながら調理し、仕上げに味を見ながら調整しないといけないからなんです。
だからこそ、レシピに書いてあるその通りに調理しても、
「あれれ?なんか違う」
「おやおや?味がボケてる?」
なんて、これで正解なのかなって味に仕上がってしまったりするわけなんですね。
使う調理器具や火加減でも全然煮る時間は変わってくるのですが、そこまでレシピ本には書いていないんです。
というわけで、今回は煮物を作ってお味見したら「ちょっと違う!」ってなったときの対処の仕方や、そうならないようにするために気を付けるべきポイントをおさらいしてみようと思います。
素材を見極める
まずは自分でできること。
それは、素材の見極めです。
根菜はなるべく皮をむかずに調理する方がわたしは好きなので、信頼できるスーパーで購入し、購入後にずーっと置きっぱなしにすることがないよう、早めに調理することを心がけます。
じゃがいもも新じゃがと書いて売られていなくても、ちゃんと管理(冷暗所で保存し輸送されたもの)されて店頭に並べられたじゃがいもならば皮ごと使えます。
ごしごしとスポンジで洗ってみて、しわもよっておらず、水分も抜けておらず、どの部分も緑色にもなっていないじゃがいもでしたらわたしはまず1個を皮ごとお味噌汁などで食べてみて、えぐみをたしかめ、大丈夫なのを確認してから残りのじゃがいもも皮ごとお料理に使うようにしています。
にんじんも農家から出荷されたばかりのにんじんなら皮むきは不要!逆に少し時間が経ってしまったものは、皮ごと調理すると皮の部分が黒っぽく変色してしまったりすることがあるので、これはむいたほうがよさそうです。
玉ねぎは加熱して使うので、通常、特に記載がなければ古玉ねぎ、外側の皮が茶色く、乾燥してパリパリの状態になっているものを使用します。逆に新玉ねぎの季節ならば、分量の中のだし汁の量を減らし、素材から出てくる水分を有効に使います。例えば具材を先にじっくりと蒸し炒めにし、十分にその甘みを引き出しながら調理すれば、調味料も驚くほど少なくても大変おいしくいただけますし、この場合は甘みを付けるためのみりんやお砂糖を使わなくてもしっかり甘いです。
大根は季節的に、冬のお野菜です。ですので、夏場に大根の煮物を作りたい!と無理にスーパーで買ってきて作っても、思っていた味にならなかったりします。なぜなら夏場の大根はかたく、辛味も強いから。煮ても煮てもかたいし味も辛い!夏に買う大根は大根おろしにしたり、せん切りにして刺身のつまかサラダにします。
ごぼうは皮をむかずに調理する方が、圧倒的に香りがよく、様々な栄養素も含まれています。煮物に使うとごぼうのその土くささがアクセントとなり、調味料が少なくても香りで満足感が得られます。
野菜によっては火が通りにくかったり、煮崩れしやすかったり、味がしみ込みにくかったり。
わがままな素材たちのそれぞれの面倒を見ながら作る煮物というのは、いかに繊細なお料理なのかというのがわかりますよねぇ…。
煮物作りの4つの約束
いい素材は集めた!じゃあさっそく煮物を作りましょう。
レシピ通りに調理しまして、煮込み時間は20分か。よ~し20分経ったらできあがりか~!
と、指定の20分後に鍋のふたを開けてびっくり。
色は薄いし、汁もびしゃびしゃ、見るからにおいしくなさそう。
煮込み時間が足りなかったのかな?おしょうゆが足らなかったのかな?
不安になりながらおしょうゆを適当に足し、強火で煮詰めてみれば、今度はどんどん煮崩れていく。
味を何度も見てみるうちに、味見のし過ぎでもはや正解がわからない…。
これをなるべく回避するためにできることは、4つ!
下味を付ける
お肉に下味を付けておくこと。
こうすることでお肉の中まで味がしみ込むので、お肉を食べた時の満足感が出ます。
油で炒める
続いてのポイントは、素材を最初に油で炒め、調味料をしみ込ませやすい状態にさせること。
炒めることで味のしみ込みがよくなり、結果煮込み時間が短くなるので煮崩れ防止にもつながります。
仕上げに香り付けをする
仕上げに香り付けになるもの(かつおぶしやしょうゆ)を入れ、薄味でも満足感を出すために香りの演出をします。
味をしみ込ませる
煮物は冷めるときにグッと味がしみ込むので、一旦冷まします。なるべく底の広い調理器具を使用するのも手です。
この4つの約束を守りながら調理をしてみてください。
配信: フーディストノート