●“正しさ”を求め続けた結果、子どもの心理にある変化が…
「最近は、特に親の前でいい子を演じる子どもが多くなっています。先日も、未就学児を預かる英会話教室の先生がこう嘆いていました。“みんな親がいる時まではいい子だけど、親が帰った途端、とんでもないことになって英語を教えるどころじゃないんですよ。親が迎えに来る時間になると、また急に大人しくなるんです。怖いですね”と(笑)。周りはみんな知っているのに、本当のわが子の姿を知らないのは親だけ。おかしな話ですよね」(須賀氏 以下同)
このような親子関係には、“親の厳格さ”が多大な影響を及ぼしていると須賀氏は語る。
「真面目すぎる、正しさを求めるなど、元々の親の性質も関係しますが、こと“正しさを求められる職業”についている親とそのお子様に顕著に目立つ傾向と言えます。本来家庭は、子どもたちにとって気が休まる場であるべき。本来くつろげるはずの場ですら、親が正しさを求めるので、子どもたちは親の前で自分を押し殺して頑張る。その反動が、学校や習い事、友人関係に悪い形となって出てしまうのです。ただし、“本来の自分”をどこかで出せるのはまだいいケースで、なかには、いつでもどこでも頑張り続け、溜め込んでしまう子どもも存在します。親の威厳が求められていた昔と今とでは、環境も大きく変わっています。昔の子育てがそのまま当てはまると思ったら大間違い。厳格な親に正しい姿を求められた結果、悲しい事例に発展してしまったケースを私はたくさん見ています」
厳格な教師の家庭で育った子どもたちが、ある日こんな問題行動を起こしたという。
「上の子は男の子で下の子は女の子。2人ともコミュニケーションが下手で、友だちが嫌がることをして関わりを求める…そんなタイプのお子さんでした。小さい頃から両親に抑圧され“いい子でいなさい”と言われ続けた結果、その男の子は、ある日、人形の首を切って遊ぶようになったというのです。下の女の子は、仲良しのお友だちを束縛し、隠れて意地悪をするようになった。さらに、迎えに来たおばあちゃんに“くそババア”などと、とんでもない悪態をついていたそうです。2人とも普通ではない状態ですが、心のなかでは悲鳴をあげていたのでしょう。抑圧されたストレスを良くない形で出さざるを得なかった。幸いこのご両親は園のアドバイスを受けて子育てを改めたそうで、子どもたちの心も少しずつほぐれていったようです」
ある母子家庭では、こんなケースも…。
「お母さんが、お父さんがいない分厳しく育てようと頑張りすぎた結果、子どもが学校で女の子の体を触ったり、スカートめくりをするようになってしまったという事例がありました。この男の子は小さい頃から厳しく育てられたため、母親に受容的に接してもらえないままきてしまった。ふざけてちょっかいをだすことでしか友だちと関われないお子さんでした。母性的な受容を求めた結果、性的なイタズラへと発展してしまったんですね。このご家庭も、お母さんの離婚のストレスが緩和され、笑顔が戻ったことで、お子様はいい方向に向かわれたそうです」
幸いこれらの事例は、親が変わり、子も安定しましたが、わが子がサインを出し続けているにも関わらず、これを受け容れず、“この子はもうダメ”とあきらめ、無関心になってしまう親も少なからずいるという。もしもあなたの子が”悪い”と思える行動をしたとしても、サインと受け止め、「どうしたの?」と子どもの心の声に耳を傾けよう。この受容こそが、サインを出したわが子を救う最善策なのだ。
(取材・文/ワタベマキ)