10代のHIV最新事情~ウィルスに感染しやすい行為とは?

第1回 未成年のエイズ
かつて放送されたドラマの影響からか、HIV感染患者は死に至る…そんな解釈を持つママは多いのではないだろうか? ‘97年、HIVウィルスの発症を防ぐ新薬による治療法が開発され、保険が適用された。この治療法誕生を機に、HIV感染患者を取り巻く環境は、日々進化し続けているのだ。そんななか、ここ数年に渡り、ちらほらではあるが10代にHIV感染者が見られるようになったという。そこで、長年に渡り、エイズ予防とケアの活動に従事するNPO法人「ぷれいす東京」理事・池上千寿子氏を取材。10代のHIVについて聞いた!

●18、19歳でHIVに感染する理由とは?

「日本のHIV感染者・エイズ患者報告は、ここ数年は変わらず、横ばいをたどっています。新規感染者(発症前)が1000前後、エイズ患者(発症後)が400件強で、合わせて1500件ぐらい(平成 26年 1 年間の発生動向。 厚労省に届けられるHIV感染者報告のなかで、一番多いのは20~30代。20代未満というのはちらほらで、18、19歳が多いですね。日本の場合、HIV感染は、圧倒的に男性同性間で起きています。この傾向はずっと続いていて、男女間での感染は比較的少ないと言えます」(池上氏 以下同)

18、19歳で感染する原因はどこにあるのか?

「まず、学校教育でHIV感染予防や性教育を扱うときに“男性間”については触れませんよね。セックス=男女間でしか想定しませんし、性感染についての授業では、口腔感染などには触れません。HIVの情報も登場はしますが、これだけ同性愛 がオープンになった今でも、“男性間でHIV感染が増えている”という事実は、教科書のどこにもないのが現状です。だから10代のゲイの若者たちは、正しい情報を得る機会がほとんどないのです」

未成年のエイズ

10代の感染者がおかれていた背景や環境を、池上氏はこう分析する。

「ある調査によると、ゲイの人たちの(性的な)初体験年齢は18歳なのですが、それ以前は、“いじめられるかも…”という不安などからゲイであることを隠すことが多いので、まず相手に出会えません。大学進学や就職で上京して、新宿2丁目に行ったりすると、やっと“自分は一人じゃない、仲間がこんなにいる、自分はこのままで生きていてもいいんだ!”と思えたりする。そんな自分を肯定するためにも、性行為があるわけですね。何の情報もなく、葛藤を抱えてきたこの子たちがパンとはじけたとき、感染予防を第一に考えられますか? 相手に嫌われたくない、空気を壊したくないという気持ちもあるし、そんななかでコンドームを使うのは至難の業とも言えます」

厚労省によるキャンペーン対策など、未成年の子どもたちが、HIVについて正しい知識を得ることが大事だと池上氏は熱く語る。

「セックスワーク(風俗)や男同士だから感染する、触ったりしても感染するなど、いまだに間違った解釈を持つ人は多いですね。でも、これは大変危険です。性感染は相手の性別や職業が原因ではありません。男女間であっても、避妊具(コンドーム)を使わなければ感染しますし、口腔性交でも感染します。以前、厚労省がゲイコミュニティでの予防キャンペーンを5年間しっかりやったこともあり、今は感染報告者の数も横ばいになっていますが、そのキャンペーンも終わってしまったので、今後また、日本でも感染者が増えるのではないかという危惧は、私たちも常に持っています。HIVは、キャンペーンがなければ忘れられてしまうので、こういうメディアで取り上げてもらえると本当にありがたいと思いますね」

性教育同様、学校で正しいHIVの知識を得られないのであれば、家庭でも、将来を担う子どもたちにしっかりとした情報を与えておくことが必要なのかもしれない。

(取材・文/蓮池由美子)

お話をうかがった人

池上千寿子
池上千寿子
NPO法人「ぷれいす東京」理事
1946年生まれ。東京大学を卒業後、出版社勤務を経て執筆活動を始める。94年に、「ぷれいす東京」を設立し、エイズ予防とケアの活動に従事する。’11年WAS金賞を受賞。子どもや大人が知っておくべき“性の健康”についてわかりやすく書かれた小冊子「SEXUAL HEALTH BOOK」も「ぷれいす東京」で販売している。
1946年生まれ。東京大学を卒業後、出版社勤務を経て執筆活動を始める。94年に、「ぷれいす東京」を設立し、エイズ予防とケアの活動に従事する。’11年WAS金賞を受賞。子どもや大人が知っておくべき“性の健康”についてわかりやすく書かれた小冊子「SEXUAL HEALTH BOOK」も「ぷれいす東京」で販売している。