●中国の若者が、新宿2丁目に…
「中国本土での話はよくわかりませんが、実は新宿2丁目に、中国の若い男の子が増えていると言われています。中国では、まだまだ同性愛が抑圧されているんですね。昔、日本で抑圧されていた男の子たちが、サンフランシスコに渡ったように、それと似た現象が起きているのかもしれません。中国のゲイの男の子たちがアジア一のゲイタウンである2丁目にやってきていることから、メディアがそのような噂をするのかもしれません。だからと言って、中国の青年にHIVが増えているとは言えませんが…」(池上氏 以下同)
一時、台湾でHIV感染者が急増したが、そこには然るべき理由があった。
「台湾で数年前にHIV感染者が急増したのは、薬物注射器の回し打ちが原因。薬物を回し打つグループのなかにHIVウイルスを持っている人がいれば、その人の血液を注射針で回してしまうことになる。これが感染源になるわけです。これに対しては注射器を共用しなければいいわけで、台湾にはそのためのプログラムがあり、薬物系の感染者は減少しました。これは、薬物使用を犯罪ではなく”依存症”としてとらえる対策ですから、日本では難しいかもしれませんね。今では、台湾でも男性同性間の感染が増えています」
HIVについて、日本人の認識は、世界的に見ても低レベルだと池上氏は語る。
「他の先進国の避妊具がピルであることに比べ、日本のおもな避妊具が、いまだにコンドームであるということから、日本の男女間のHIV感染は結果的に抑えられていると言えますが、予防意識が高いわけではないですね。。今は発症を遅らせる治療法も開発され、HIVは死に至る病ではなく、“慢性疾患”と言われるようになりましたが、そんな事実も知らない人が多いです」
HIVと共存しながら生きていく人たちは、それはそれで課題や困難がついてまわる。
「まず彼らは、”自分がHIV感染者であること”を職場では言いにくい。個人情報がもれて不利益が起こりかねませんから、職場だけでなく家族や仲間など、”誰にいつ伝えるか”ということは、HIV感染者の誰もが抱える大きな課題です。治療法ができても、そういった心の問題はまったく薄まらない。命が延びても社会の環境が整わなければ、抱える問題が多くなって複雑になってしまうんですね。日本の皆さんの誤解が少しでも解けるように、私たちはNPOとして”安心して病を発見し、安心して病とつきあえる”環境整備を目指して活動しています」
子どもを持つ母であれば、性感染症やHIVについて正しい知識をインプットしておくべき。愛する子どもたちが“性の健康”をなおざりにし、感染してしまう前に、また、間違った知識でHIV患者を差別しないように…親として何かしらの手を打つべきなのだ。
(取材・文/蓮池由美子)