●夫の急死から逃げずにしっかり向き合う
まず、大事にしなくてはいけないのは、無理に立ち直ろうとしないことだと武藤さんは言います。
「多くの人はパートナーの死と向き合うことを恐れて、気を紛らわせようとするものですが、無理に何かをして頑張らないことです。どうしても早く忘れて、次のステップに行かなくてはいけないと思う人が多くて、なかには忘れるために旅行に出ようとする人もいます。それよりも、少しずつ向き合いながら心を落ち着かせていくことが大事です」(武藤さん、以下同)
泣きたいときには泣く、語りたいときは心ゆくまで語れる友人を持つ、そうしたことで夫の死を受け入れる準備が整っていくそう。
「また、日本の供養の仕方というのはとてもいいシステムで、初七日や四十九日など、時間を空けながら向き合うことができます。意識的に受け止めるとか受け入れるでもなく、向き合うという事実が大事になってくると思います」
●日常の風景が夫の急死による喪失感をもたらす
夫の死にしっかりと向き合うことから逃れると、時間を追うごとに強い喪失感に苛まれることにもなりかねないそう。
「たとえば、30代で結婚してすぐに夫を病気で亡くし、しばらく車に乗れなくなってしまい、ついに車を買い換えた女性がいました。それは、『一緒に車を運転して出掛ける』という何気ない日常の行動を思い出すのがつらすぎたからだそうです。つまり、生活をともにしているということは、夫を喪失したことに対する悲痛や寂寥感という感覚を引き起こすきっかけが、随所にあるということなんです。その女性もお葬式では、つらそうな様子も見せず気丈に振る舞っていましたが、大事なのはその時々の感情を押し込めないこと、それに尽きると思います」
大切な人の死を悲しむ気持ちというのは、時間が経って薄れることはあっても決して癒えることがないものです。しかし、だからといって周囲を気にするあまり、自分を鼓舞するためにそうした感情を抑えることは逆効果。その都度感じる悲痛な気持ちを吐き出すことが、立ち直りを後押しすることになるのかもしれません。
(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)