『あちこちオードリー』小籔千豊は丸くなった? 時代に即した“説教芸”のあり方

私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。


写真ACより

<今回の有名人>

「男前じゃないのにモテたくてしゃーないヤツ」小籔千豊

 仕事としてテレビをずっと見続けていると、売れた芸能人の底力のようなものを感じることがよくある。自分の持ち味が時代に合わなくなったとしても、見せ方を変えることができれば、生き延びていける。その成功例の筆頭は有吉弘行だと思うが、小籔千豊もうまく“モデルチェンジ”しているなと、2月8日放送『あちこちオードリー』(テレビ東京系)を見て思った。

 小籔といえば、番組で自分の爪痕を残すために必死で、周りが見えていないグラビアアイドルを厳しく叱る姿の印象が強い。よく使う表現は「しょーもない」「あいつ、イキってる」。ほかにも、「親孝行しろ」「子どもが結婚式のときにどんなあいさつをするかで子育ての成否が決まる」「ハロウィンをやるくらいなら花まつり(お釈迦さまの誕生日)を祝え」といった持論を展開するのも特徴的だ。

 こういった小籔の言動から判断するに、彼は保守的な価値観の持ち主と見ていいだろう。小籔が出演していた『ざっくりハイタッチ!』(同)で、共演者のフットボールアワー・後藤輝基には「思想が強い」とツッコまれていたが、この“偏り”、そこから生まれる説教こそが、小籔の魅力の一つといえる。

 ただ、これもれっきとした個性ではあるものの、あらゆるハラスメントに「NO」が突き付けられる今の時代において、小籔の芸風は少々分が悪い。なぜなら、小籔の説教が若者に対するパワハラと捉えられかねないからだ。ただ、それを捨て去ると、小籔の魅力は減ってしまう。さて、彼はどうするか――。

 しかし、そんな心配はまったく不要だった。小籔は「個性を生かしながらも、時代に即した見せ方」をとっくに確立していたようだ。端的にいうと、若い人の話をしっかり聞き、時に説教する場面でも相手を責めすぎず、「これは、自分の考えを押し付けているわけではなく、あなたのため、全体のために言っている」というスタンスを明らかにすることで、世間から反感を買わない芸風を成立させていた。

 この日の『あちこちオードリー』のゲストは、劇団ダウ90000主宰の蓮見翔と小籔の2人。小籔の立ち居振る舞いは、やはり過去のそれとは変化しているように感じた。

 例えば、小籔はかなり年下である売れっ子の蓮見に対し、先輩風を吹かせることもなく、むやみにツッコむこともなく、体をきちんと蓮見側に向けて、真剣に話を聞いていた。その昔、小籔は吉本の後輩や若い人の話を聞く時、下を向いたままのことが珍しくなかった(おそらく気心が知れているからだろうが)と記憶しているから、過去と今では雲泥の差といえるのではないか。

 また、下の世代にキツいことを言う際、その“理由”を明らかにした点も、ただ言いっぱなしにしていた過去に比べ、変わったなと思った。

 小籔は、吉本新喜劇の座長になってすぐに、大勢の前で「『私、俺、出番ないやん』と思ったり、『あの役はホンマやったら俺の役ちゃうか、あいつばかり何で使ってるんですか』と思う奴いたら、全然言うてこい。この役やったら、負けへんていうのがあったら、全然言うてこい。絶対1回か2回使う」と“売り込み”を歓迎したという。しかし、「その代わり、それでスベったら一生使わん」と達成すべき壁を明示したところ、小籔いわく「誰も(不平不満を)言うてこなくなった」そうだ。

 昭和のスポコン的な話だけに、時代錯誤と受け取られかねないが、小籔は続けて「野球選手かて、そういうことやん。二軍でずっと振ってて一軍に呼ばれて、打ったらスタメンになるけど、大事なところで三振したらそれは……。一緒やから」と、プロの世界ならではの構造を説明して、「(だから若い世代は)甘えてんねん」とお説教で締めた。

 いきなり「最近の若者は甘えてる、やる気がない」などと突き放さず、若手の将来を見据えながら、なぜそう感じるのかを丁寧に説明を重ねた上で、キツいことを言う――それが今の小籔スタイルなのではないか。

 一方で、小籔はキツいことを言うばかりではない。

 蓮見は今、仕事のオファーがたくさん来ているにもかかわらず、劇団員がイマイチ努力しないと嘆くが、小籔は「モチベーション、人間全員が揃うことなんてない」「全員が蓮見さんと同じモチベーションで能力あったら、めちゃくちゃケンカしてる」と、やる気がない人がいるからこそ、劇団の平和が保たれ、蓮見のやりたい仕事ができていると分析しつつ、下の立場である劇団員をかばった。これもまた小籔の新たな一面のようにも思った。

 そんな小籔はこの話に続けて、人にはいろいろなタイプがいて、モチベーションも異なると説明し、具体例として「能力ないのにモチベーションが高いヤツ」「努力しないのに売れたくてしゃーないヤツ」「男前じゃないのにモテたくてしゃーないヤツ、一番タチ悪い」と毒舌を披露した。

 3つ目の「男前じゃないのにモテたくてしゃーないヤツ」は、劇団とは直接関係ない気もするし、男前じゃなくてもモテたいと思うのは悪いことではないが、誰かをかばった上での毒舌なら、キツすぎないため、世間から好意的に受け入れられるのではないか。また、「うまい」と思ったのは、吉本新喜劇には女性の劇団員もいるが、「美人じゃないのに」と切り出さなかったことだ。

 小籔といえばかつて、今では女性蔑視と批判されかねないような発言をよくしていた。例えば、「いい年こいた美魔女をチヤホヤする国に未来はない」。その理由の一つとして「白髪染めも我慢して、自分磨きのお金を子どもの塾代にしているおばはんもおるわけです。そのおばはんも賛美する逆側の意見もないと」と挙げていたのだ。

 なんとなく正論のような気もするが、美魔女が美を保つための費用をどうねん出するかは、人それぞれ。自分で稼いだお金をつぎ込む人もいれば、夫からもらったお小遣いを使う人もいるだろう。本人もしくは家族が同意しているなら、人のカネの使い方を他人がとやかく言う権利はない。

 おそらく、かつて小籔の中には「貧しいけれど、文句も言わずに耐え忍ぶ女性が美しい」という「女性=忍従」的な価値観があったのだろう。しかし、今の時代にこの発言をしたら、小籔のイメージは下がる。それを見越してか、小藪は女性についての主張をあまりしなくなったように思う。今回の毒舌でも、女性を例に持ってこないあたり、小籔は「わかっている」のだと感じた。

 見え方、見せ方を少し変えると、全体の印象までも変わってくる。他人からの評価に納得していない人は、自分から見て「昔より丸くなった芸能人」を参考にしてみるといいのかもしれない。

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サイゾーウーマン
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料理や収納など暮らしに関する情報や、芸能、海外ゴシップの最新ニュースを連日発信中。ほかにも、皇室や女子刑務所のウラ話、万引きGメンの現場レポなど、個性豊かなコラムも展開。ほかとは異なる切り口で、女性の好奇心を刺激する記事をお届けします。
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