行きつけのミニシアターをひとつ。映画監督のタナダユキさんが語る、その魅力。

今年、新たなミニシアターが続々誕生している。小さな劇場で映画を観ることの面白さとは? かねてからミニシアターに通ってきた映画監督のタナダユキさんが、思い出を交えつつ、“行きつけ”を持つことのよさを教えてくれた。

「 ざらざらした手触りがあるミニシアターでの体験は、記憶に残るんです 」

シネコンのような大きな劇場も楽しいけれど、ミニシアターでは映画をより身近に感じられる。プログラムを見るだけでも「この2本立てをやるか!」と発見があるし、本当に映画が好きな人が働いているのだと信頼もできる。いい意味でざらざらした手触りがあるんです。だからこそ記憶にも残る。

私の場合、福岡から上京してきたころによく通ったのが横浜にあった〈関内アカデミー〉でした。平日の昼におにぎりを持って行って、2本立ての間にぼそぼそ食べたりして。そんな時間帯なのでお客さんもまばらでしたが、お互いに「この人はどんな仕事をしているんだろう?」って不思議がっていたと思います(笑)。ここでヴァンサン・カッセルが出演する『憎しみ』という映画を観たのですが、これがなかなかの衝撃作で。劇場を出るときには、性別も世代もバラバラな観客たちがみんな呆然としていましたね。その雰囲気は今でも強く印象に残っているし、こんな体験ができるのは本当に良質な映画を上映するミニシアターならでは。当時の私もそうでしたが、「人と違うことをしたい!」と願う20歳前後の人にとっては、ちょっとした優越感にも浸れる空間でもありますよね(笑)。〈シネ・アミューズ〉には『ビリケン』を初日に観に行って、最前列に座って阪本順治監督や杉本哲太さんを仰ぎ見たこともありました。単に映画を観るだけじゃなくて、そうした体験ありきの記憶だから、どれも忘れがたい思い出です。

体験という意味では、私の出身地・北九州にある〈小倉昭和館〉には数々のイベントに声をかけていただきました。『ユリイカ』の青山真治監督や、俳優の光石研さんなど映画界の大先輩たちとお会いすることができたり。劇場は8月、創業83年を迎える直前に火災で全焼してしまいました。思い入れのある場所だからこそ辛いけれど、その分、私にできることはやりたいと強く思っています。以前に比べれば減ってはいるけれど、新しいミニシアターが生まれているのはうれしいですね。落語家の柳家喬太郎師匠も「街には映画館と本屋、あとパチンコ屋は絶対にあってほしい」っておっしゃっていました(笑)。なかでも映画は人が作り出した比較的新しい文化だから、人が守らないとなくなってしまう。文化を守るためにと気負う必要はないけれど、喫茶店のように気軽な“行きつけ”のミニシアターがあれば、心に残る体験にも出合えるはずです。

続々! 今年オープンの新しいミニシアター。

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