「相手が死亡するまで攻撃してしまうというのは、もはやケンカではなく暴力です。では、なぜそこまでエスカレートしてしまうのか? それは、社会全体から子どもたちに送られているさまざまなメッセージや、現代の子どもたちを取り巻く環境が背景にあるのです」
そう話すのは、白梅学園大学教授の増田修治先生。実は、ここ数年、小学校1年生の暴力が増加しているという“暴力の低年齢化”も問題になっている。子どもたちにいったい何が起こっているのだろうか。
「社会全体に、強くなければならない! しっかりしてなければならない! やられたら、やり返せ! という発想がとても強いと思います。特に男の子は強くないといけないというプレッシャーがある。というのも、今の親御さん世代は、競争社会を勝ち抜いてきた世代ですから、勝ち抜かないといけないという強迫観念に近いものを持っているんです。そうすると、わが子にも知らず知らずのうちに強さを求めてしまうんですね。そのメッセージを受け取った子どもは、例えばケンカもやるんだったら負けちゃいけない、やられたらやり返す! というふうに思ってしまうのです」(増田先生 以下同)
また、今の親御さんは何事にも“結果を急ぐ”傾向にあるという。それも、気をつけなければならないそう。
「例えば、習い事も小さいころからやっていなければダメ。早く結果を出さないと…と、親御さんがみんな焦っていて、あれもこれもやらせて、あれもこれもできなきゃいけないと過大な要求をしてしまい、子どもたちのプレッシャーになってしまうのです。そのストレスが子どもたちを爆発させたり、すぐに結果を出さないといけない、白黒はっきりつけないといけないという考えにもなり、ケンカにも大きく影響を与えてしまいます」
さらに、子どもたちを取り巻く環境にも原因の一端があると、増田先生は話します。
「少子化によって、幼少期のケンカ体験が少ないことも原因といえます。きょうだい間、友人間のケンカを通して学ぶ機会が少ないため、加減がわからない、かわし方がわからない。また、大人がすぐに止めに入って解決してしまう。そんななかで、マンガやゲームの過激な暴力描写などを次々と目の当たりにしているので、感覚は麻痺してしまうのです。マンガなどで、バットで何度も殴られているのに、立ちあがってくるなんて描写がありますが、そんなこと現実だったらありえませんからね」
つまり、このような現代の子どもたちが置かれている状況を把握し、大切なことをしっかり教えていかなければならないという。
「大事なことは、強ければいい、勝てばいいということじゃないということ。弱くてもいいんです。弱ければ、弱い人の気持ちがわかるし、弱い人の味方にもなれますからね。そして、ケンカをするにも、ルールがなければ、それは暴力でしかないんです。強くなければ!…と追い込むのではなく、人間としてどう生きていくか? 人間としての本当の意味での強さとは何なのか? ということを、大人たちがしっかり子どもたちに教えていかなければならないと思います」
こういった事件を通して、大人たちが今の子どもたちの現実と向き合い、しっかり原因を究明し改善していくことこそが何より大事ですね。
(構成・文/横田裕美子)