トランスジェンダーの子、ココロはどう成長していく?

第2回 もしも我が子がトランスジェンダーだったら
小学生から中学生の思春期にかけて、子どもの心と体はますます変化していきます。この時期は、自身の「身体の性」と「心の性」が一致しない、トランスジェンダー(医学的には性同一性障害と呼ぶこともある)の子にとって、自分の本来ありたい姿と成長とのギャップに苦しむ日々でもあります。

トランスジェンダーの子にとって試練といっても過言ではない思春期。親としては子どものココロがどのように変化するのか、そしてそれをどう受け止めるべきなのでしょうか。自身もトランスジェンダーの当事者で、LGBT(性的少数者)の若者支援を行っている遠藤まめたさんに聞きます。

●性の違和感に拍車をかける“社会の常識”

「日本のみならず、男は男らしく、女は女らしくというのが美徳とされてきた長い歴史があり、いまの社会にもその考えが根強く残っています。そんななかで、トランスジェンダーの子どもは、その“常識的な枠組み”に当てはまらない自分を責めたり、コンプレックスに感じたりするようになります」(遠藤さん、以下同)

それは、思春期の変化によっても、大きく影響を受けるようです。

「思春期になるとホルモンによって、骨格の変化や声変わり、胸が大きくなってくるなどが生じてきます。身体の性別に違和感を覚えているトランスジェンダーの子どもの多くにとっては、日を追うごとに、自分が自分ではなくなっていくような感覚に引き裂かれてしまうという大変苦痛な出来事です」

また、中学生になると制服を着用する学校がほとんど。これもトランスジェンダーの子を苦しめることになるとのことです。

「服装や髪型はその子にとって、とても大事なことなんです。制服を着たくないという訴えを、単なる『ワガママ』とは捉えないでほしい。たとえばFTM(身体の性は「女性」、心の性は「男性」)のトランスジェンダーの子にとっては、スカートを履いて行くのは『女装』以外の何者でもないし、MTF(身体の性は男性、心の性は女性)の場合には、伸ばした髪を切られることが、涙が出るほどつらいことだったりします。トランスジェンダーではない子どもたちが当たり前に享受できる『男として、女として普通に扱われる』ということと、まったく異なる毎日をひとりだけ強いられることは、耐えがたい苦痛です」

トランスジェンダーの子、ココロはどう成長していく?

●学校のルールがつらければ、交渉をするのも方法のひとつ

気持ちとは異なる性別で振る舞うことを強いられる自分の姿を人前にさらしたくない、そんな気持ちが強くなってしまうことで、学校から足が遠のいてしまうこともあるようです。

「親にはそういう気持ちが分からないので、『なんでスカートを履くくらいでそんなに嫌なの』『もっと男らしくしないとダメだ』と責めてしまうこともあります。そうすると、ますます心を閉ざしてしまう。しかし、子どもにとってはものすごく深刻なことなんです。性同一性障害ということで岡山大学病院のジェンダークリニックを受診した人のうち、不登校経験者は4人に1人にものぼっています。その大きな理由のひとつは制服の着用です。それくらい制服の存在は大きいものです」

さらに、身体の変化に敏感になるがゆえに、馴染めない授業も出てくるという。

「とくに水泳が嫌になる子が多いです。体の線が出るので、水着がそもそも恥ずかしい。しかも更衣室で、自分にとっては『異性』と感じる集団の中で、着替えなくてはいけません。間違った集団に入れられ、着替えるところを『異性』にさらされるということは自尊心を大きく傷つけられることです。本当は困っているのに、うまく理由を言えず、はたからみるとサボっているように見えてしまい、先生から叱られてしまう子どももいます。レポートなど、他の代替手段が用意されていると、本当に助かる子どもがいるでしょうね」

トランスジェンダーの子どものココロの変遷を親が理解しておけば、対処法も見えてきそうです。子どもに「学校にあわせること」を無理強いするのではなく、学校に制服着用のルールを変えてもらえないか、水泳の着替えでは個室を使用させてもらえないかなど、交渉することもできるはず、と遠藤さん。

世間の常識にとらわれることなく、子どもを理解してサポートしてあげることができるのは親だけ。そのためにも、ココロに寄り添うようにコミュニケーションを取ってあげることが必要なのではないでしょうか。

(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

遠藤まめた
遠藤まめた
1987年生まれ横浜育ち。トランスジェンダー当としての自らの体験をきっかけに10代後半よりLGBTの若者支援をテーマに活動。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版、2016年)ほか。
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