誤認逮捕されると、無実であることが明らかとなるまで被疑者扱いが続き、ときには厳しい取り調べがなされる可能性があります。場合によっては、起訴されるリスクも伴います。
したがって、万が一誤認逮捕された場合には、できるだけ早期に動き出すと同時に、実生活上への被害の拡大防止策や賠償請求などについても検討を始めるべきでしょう。
そこで今回は、
誤認逮捕とは
誤認逮捕された後の流れ
誤認逮捕の実例
誤認逮捕であったことが判明した後の賠償請求や担当者の処分内容
誤認逮捕されたときに弁護士に相談するメリット
などについて、弁護士が分かりやすく解説します。
ご家族や知人が誤認逮捕された可能性がある方や、誤認逮捕の不安を抱える方の助けになれば幸いです。
1、誤認逮捕とは
一般に、誤認逮捕とは、捜査機関が被疑者として逮捕した人物が、無実であることが明らかとなった場合の誤った逮捕行為のことを意味します。
つまり、「犯人ではない無関係の人を逮捕してしまった。」という事態のことです。
逮捕は、対象者の身体を拘束する強制処分であり、嫌疑をかけられた人の行動の自由・諸権利を侵害することになります。それが誤認による場合には、不当な権利侵害に当たります。
なお、誤認逮捕と似た用語として「冤罪」が挙げられます。
冤罪とは、本当は無実の人が刑事裁判を経て犯罪者であるように扱われることを意味するのが一般的です。
つまり、誤認逮捕は「逮捕段階」での誤りを指すのに対して、冤罪は主に「公判以降」の誤りを示す点で両者は異なります。
とはいえ、公判手続きは逮捕段階を前提としている以上、冤罪は誤認逮捕の延長線上にあるとも言えるので、両者は無関係ではありません。
2、誤認逮捕が起こる原因
誤認逮捕は、刑事手続きの制度上の問題を前提として、そこにさまざまな要因が積み重なって起こります。
そこで、誤認逮捕が起こる制度的な問題と、誤認逮捕が生じる可能性が高い場面について、それぞれ具体的に解説します。
(1)制度上の問題
そもそも、捜査機関が被疑者を逮捕するという判断をするのは、逮捕前に得られた証拠や供述などを前提に「当該人物が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があるからです(通常逮捕の場合。刑事訴訟法第199条第1項)。
つまり、ここには以下のような誤認逮捕を生じ得る制度上の問題点が存在すると言えるでしょう。
逮捕段階では被疑者が真犯人であると確定されたわけではない
逮捕はその時点で得られた証拠・供述などのみを前提に判断される
逮捕後の捜査活動で新しい証拠・供述などが得られることも少なくない
逮捕の本来目的は逃亡の防止・証拠隠滅の防止に過ぎない
通常逮捕の場合には、逮捕行為に至る前の段階で裁判官による逮捕状の審査を経る必要があるため、捜査機関の独断に基づく逮捕はある程度予防されています(令状主義)。
それでも、裁判官による事前審理は「捜査機関から提出された証拠」をもとに行われるので、誤認逮捕を完全に防ぐのは難しいと言わざるを得ません。
(2)勘違いで現行犯逮捕
誤認逮捕が起こりやすい場面として、周囲の目撃者などの勘違いが原因で現行犯逮捕されるケースが挙げられます。
現行犯逮捕とは、現行犯人(現に罪を行った者または現に罪を行い終わった者)・準現行犯人(犯人として追呼されている人などで、罪を行い終わって間もないと明らかに認められる者)を逮捕する行為のことです(刑事訴訟法第212条各項)。
通常逮捕とは異なり、現行犯逮捕では令状主義が適用されません。
まさに罪を犯した緊迫した場面であり緊急性・必要性が高いと考えられるので、裁判官による事前審査や逮捕状の発付なしで被疑者の身体を拘束できるのです(刑事訴訟法第213条)。
そのため、周囲の目撃者に犯罪の発生や犯人の見間違えなどの勘違いが生じると、現行犯逮捕が誤認逮捕になる危険性が生じます。
たとえば、満員電車内で被害者が痴漢行為を受けていたが、周囲の人が勘違いして別人を取り押さえるようなことが誤認逮捕の代表例として挙げられるでしょう。
(3)虚偽の告訴・告発・被害届
被害者による虚偽の告訴や被害届の提出、第三者による虚偽の告発によって誤認逮捕が引き起こされる可能性もあります。
たとえば、怨恨を晴らす目的でストーカー被害の物証を偽装して被害届を提出し、無関係の第三者が捜査線上にあがってくるように仕向けた場合には、誤認逮捕の危険性があるでしょう。
また、真犯人ではない第三者が身代わりになって警察に自首するケースも考えられます。
さらに、目撃者の勘違いで作出された犯人の似顔絵を根拠に別人が誤認逮捕される可能性も否定できません。
あってはならないことですが、被害者からの申告やもっともらしい証拠を裏付けをきちんととらないまま鵜呑みにしてしまうことがあれば、事件とは無関係の人物が誤認逮捕の危険に直面しかねないでしょう。
(4)任意の事情聴取での自白強要
任意の事情聴取に応じた人物に対する自白強要によって、誤認逮捕が引き起こされる可能性があります。
たとえば、任意である(つまり「強制ではない」)にもかかわらず長時間の取り調べを強要して、捜査機関が望む内容の供述を引き出すまで帰宅させないなどの方法によるケースが挙げられます。
取り調べの可視化による違法捜査を防止する目的から、令和元年6月1日の施行の改正刑事訴訟法によって、一定の重大事件などで身柄を拘束されている被疑者の取り調べについては全過程の録画・録音が義務付けられてはいます(刑事訴訟法第301条の2)。
しかし、録画・録音義務が課されているのは裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限られており、比較的軽微な犯罪は録画・録音の対象外になっています。
そのため、自白強要や供述の誘導などによって違法に証拠が収集された場合には、誤認逮捕が引き起こされる可能性があると言えるでしょう。
配信: LEGAL MALL