無期懲役と終身刑の違いとは?出所の可否や受刑者の生活実態も紹介

無期懲役と終身刑の違いとは?出所の可否や受刑者の生活実態も紹介

3、無期懲役が事実上の終身刑といわれる理由

実際のところ、無期懲役の受刑者が仮釈放を許可される確率は低く、獄中で死亡する人の方が多くなっています。そのため、無期懲役は事実上の終身刑(絶対的終身刑)に近いといわれることもあります。

(1)仮釈放までに最低30年はかかる

仮釈放の審理・判断は法務省管轄下の地方更生保護委員会が行いますが、審理・判断の運用基準は法務省が定めています。

そして、法務省は無期懲役の受刑者については、刑の執行開始から30年が経過したときに初回の審理を行うこととしています。

参考:法務省保護局長|無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について(通達)

その理由は、有期懲役で言い渡される刑期の上限が30年だからです。

有期懲役の上限は原則として20年ですが(刑法12条1項)、併合罪などで加重される場合には30年にまで引き揚げられることがあります(同法14条2項)。

有期懲役の受刑者が最大で30年服役する可能性があることとの均衡を図るため、それよりも重い無期懲役の受刑者には、最低30年は服役してからでないと仮釈放が認められないという運用が行われているのです。

つまり、無期懲役刑の判決が確定して服役し始めてから最低でも30年が経過するまで、仮釈放が許可されることはないということです。

20歳代で服役を始めたとしても、仮釈放が許可されるのは早くても50歳代以降となります。50歳代で服役を始めた場合には、80歳代以降にならないと仮釈放は許可されません。

(2)30年以上服役しても仮釈放が認められるケースは少ない

法務省の発表によると、2021年に無期懲役から仮釈放が認められたのは9人でした。

同年末時点で服役中の無期懲役受刑者は1,725人いたので、1年間に仮釈放が許可される人の割合は0.5%程度ということになります。

新規に仮釈放が認められた人の平均受刑在所期間は32年10ヶ月ですが、その一方では死ぬまで仮釈放が許可されない受刑者もいることを忘れてはなりません。

2021年中に死亡した無期懲役受刑者は29人もいます。

つまり、無期懲役になると、仮釈放で出所できる人よりも、そのまま獄中死する人の方が圧倒的に多いのです。以上が、無期懲役が事実上の終身刑であるといわれる理由です。

参考:法務省|無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について

4、無期懲役の受刑者の生活の実態

無期懲役になると最低30年以上は仮釈放が許可されず、死ぬまで服役が続く人も多いということになると、刑務所での生活の実態が気になることでしょう。

(1)刑務所内での暮らしは?

刑務所内では、基本的に雑居房で生活することになり、刑務官にも常時監視されているので、プライベートはほとんどありません。

起床・就寝や刑務作業の時間は厳格に決められていて、厳しい規律のもと、スケジュールどおりに過ごす必要があります。

運動や余暇の時間もありますが、施設内でできることは限られています。

月額4,000円程度の作業報奨金があり、月に1回程度は嗜好品(お菓子など)を購入することも認められますが、当然ながら飲酒・喫煙などは禁止です。異性との性交渉を行うことも許されません。

そして、定期的に改善更生のための指導・教育を受けます。

最低限の基本的人権は守られているものの、ひとことで言えば「自由」がない暮らしを余儀なくされます。

その他、刑務所内での暮らしについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

(2)面会はできる?

無期懲役受刑者にも面会は認められています。

面会できるのは基本的に家族・親族に限られますが、内縁の夫や妻も含まれます。

それ以外の友人や知人などについては、刑事施設の長の許可を得なければ面会できません。

交友関係の維持など面会の必要性が認められ、面会によって刑事施設の規律・秩序を害する恐れがなく、受刑者の矯正処遇に支障をきたす恐れもない場合には、面会が許可される可能性があります。

面会の回数は月2~7回で、受刑者の刑務所内での成績に応じて決められます。この制度のことを「累進処遇」といいます。

1回当たりの面会時間は基本的に30分程度ですが、面会希望者が集中したときなどには時間が短縮されることもあります。

(3)医療は受けられる?

刑務所内でも、必要に応じて医療を受けることは可能です。

各刑務所に医師や看護師も勤務していますし、専門的な医療行為を要する受刑者は医療刑務所に収容されます。高齢の受刑者に対しては、他の受刑者による介護なども実施されています。

とはいえ、日本弁護士連合会の担当委員会からは、受刑者が願い出ても診察が許可されない、許可されたとしても刑務官立ち会いのもとで短時間の診察が行われるだけで、十分な医療が提供されていない、といった実態も報告されています。

医療を受けられないまま受刑者が死亡する、医療水準が劣悪である、といった事例も少なくないようです。

参考:刑務所医療をめぐる問題点と改革の提案

無期懲役が事実の上の終身刑のようになりつつある現状においては特に、刑務所内の医療については改善される必要があるといえます。

(4)死亡したらどうなる?

受刑者が施設内で死亡した場合、基本的には連絡を受けた遺族が遺体を引き取ることになります。

ただ、実態としては引き取りを拒否する遺族も少なくありません。特に、無期懲役の受刑者については家族・親族と疎遠になっており、遺体の引き取り手がいないケースが多くなっています。

遺体の引き取り手がいない場合には、刑事施設において簡単な葬儀を行った上で火葬場に送ります。

遺骨は2年間、刑事施設で保管されますが、その間に引き取り手が見つからない場合には、自治体が運営する共同墓地に埋葬されます。

近年は受刑者も高齢化が進んでいることもあり、施設内で亡くなり遺体の引き取り手がいないケースがさらに増えつつあります。

もし、ご家族など身近な人が無期懲役になった場合は、将来的に施設内で亡くなったらどうするかということも考えておかれた方がよいでしょう。

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