●いい子が犯罪を…“いい子”という言葉の背景にあるもの
「いい子が…と、言われると、わが子も今はいい子だけど、将来は大丈夫かしら…と、不安になってしまう子育て中の親御さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、この“いい子”という表現には、様々な意味が考えられるので、動揺せず冷静に受けとめていただきたいと思います」(小俣先生 以下同)
“いい子”という表現は非常にあいまいだという。
「まず、ひとつは“いい子”は、本当にいい子だったのか? ということです。犯罪や非行の理論のなかで、悪い子も四六時中悪い子じゃないと言われています。つまり、場面や状況に応じて悪いことをするわけです。“漂流理論”といいまして、少年は非行文化と遵法文化を揺れ動いていて、例えば、悪い子も昔からお世話になっている近所のおじさんや知人などの前ではいい子というのは当然のことなんですね。そうすると、マスコミはいい子の面を捕まえ、もう片方は悪い子の面を捕まえる。そうなると、いい子がなぜ? となるケースもあるわけです」
また、“いい子”や、“普通の子”の捉え方についてもわかりづらい部分があるという。
「昔は、貧困や家庭離散など家庭環境などの問題を抱え、進学もままならずドロップアウトしてしまったり…という子が不良化し犯罪へと表面化するようなパターンが多かったのです。しかし、最近の日本の子どもの状況はどうでしょう? 一億総中流を経て、生活水準も多くの家庭が安定していて、進学率も高校進学率は9割を超え、大学進学
者も半数以上です。さらに、両親も二人揃っていて…このようになると、非行を犯した子どもの場合も、こうした“普通の”家庭環境、学歴が該当するケースが多くなります。こうしたことが、“いい子が犯罪を犯す”ということをよく耳にするようになったひとつの理由と言えます」
●物理的に存在していても、機能的に存在していない“機能的欠損家庭”とは?
しかし、実はこういったケースが、一番注意しなければいけない盲点だという。
「物理的に恵まれていることに安心してしまい、しっかり機能していない家庭が存在するのです。つまり、両親が物理的に存在していても、親として機能的に存在していない。ちゃんと父親、母親としての役割を果たせていない。こういう家庭を“機能的欠損家庭”といいます。居るには居るけれども、親子間にコミュニケーションがなかったり、放置していたり、一方的な歪んだ愛情を注いでいたり、また夫婦間にトラブルを抱えているなど、外からは見えない部分で子どもが心に闇を抱えているケースは多々あるわけです」
いい子がなぜ犯罪を? の裏には、このように様々な背景があるので、言葉をそのまま鵜呑みにして不安を抱くことのないようにしてほしいという。
●いい子が犯罪を…ニュースをきっかけに、今一度、自身の親子関係、家族関係を振り返ってほしい
「もちろん、本当にいい子としてがんばってきた子が周囲からの過度な期待のプレッシャーで弱音も吐けず、挫折などをきっかけに精神的に追い込まれ、犯罪を犯してしまうようなケースも確かにあります。しかし、このケースについても、挫折した子が皆犯罪を犯すわけではないですよね? つまり、重要だったのは、挫折したときに、親や周囲がどう対応したか? なのです」
“いい子が犯罪を…”という事件などを目の当たりにしたときには、今の時点でわが子がいい子で問題なかったとしても、ぜひ自身の親子関係、夫婦関係など家庭環境を今一度見直したり、振り返ってほしいと、小俣先生は話します。
「日々の生活に追われていると、なかなか家庭をじっくり振り返るきっかけを失ってしまうものです。少年犯罪などのニュースを見て過剰に不安になることはありませんし、ご自身の子育てに自信を持っていただきたいのですが、決して他人事ではないことも事実です。“最近、ちゃんとコミュニケーションとれているだろうか?”“話は聞いてあげられているだろうか?”“最近、異変はないかな?”“ちょっとプレッシャーかけすぎかな?”…と、ぜひ親子関係や家族関係を振り返ってみてください」
ほとんどのいい子は犯罪を犯すことなく成長していくもの。しかし、子を持つ親としては、決して人ごとではないということも肝に銘じて子育てしなければなりませんね。
(構成・文/横田裕美子)