●自分だけが厳しく叱責され…
「最初は軽いノリでした。ママたちで年に1回、お芝居を披露するサークルがあると聞いて“面白そうだな~。ストレス解消にもなるかも!”と思ったんです。元々、私自身が芸能界を目指していたほど、出たがりな性格でしたし、中学生の頃は演劇部だったので、サークルに入ることにはまったく抵抗はありませんでしたね。でも“あそこは大変だよ~”とほとんどのママに止められました(笑)」(Aさん 以下同)
Aさんは、スタイル抜群の美人で、結婚前は車のショールームで働いていた。女優の黒谷友香を思わせるクール美人だ。
「部長さんは、結婚前、大きな劇団に所属していた本格派。そのつながりでレッスンの先生も呼んでいたので、みんなが本気で、発声からストレッチまで何もかもが本物でした。みんな明るくていいママたちでしたし、レッスンも楽しかったので、最初のうちは良かったのですが…」
聞けば、年に1回、地元の幼稚園と小学校で公演があるという。演目も本格的で、部長ママが脚本を書き、公演前ともなると、毎日のように練習が行われる。
「まだ入ったばかりなのに、よりによって、3番手位の重要な役を任されたのです。セリフの量も膨大。若い頃と違ってなかなか覚えられないし、稽古では、毎日私だけ叱られていました。“次までには絶対に覚えてきて!”と言われたにも関わらず、緊張から、稽古になるとセリフが飛んでしまう。さらに、“声が前に出ていない!もっとお腹から出さないと、後ろにまで届かない”と注意され、私だけ特別に、発声のレッスンを受けるようになりました。作品の中には歌もあり、なんと私のソロパートもあったのです(笑)」
●笑顔でいられなくなったら…それはもはや趣味ではない
気がつけば、家のなかはひっくり返ったようにめちゃくちゃで、子どもを母親に預けて練習に行くという本末転倒な状態に…。
「子どもたちにも寂しい思いをたくさんさせてしまいましたし、夕飯も作らずに母任せで、あの頃は、本当にひどかったですね。主人からは“今回の公演が終わるまでだからな”と念を押されましたが、子どもたちだけは、私のお芝居を楽しみにしてくれているようでした」
頭に5円玉のような円形脱毛が2か所もできていたそう。
「ハゲができたときはさすがにショックでしたが、皆さんの励ましもあり、何とかセリフも覚えて歌も歌えるようになりました。公演本番もセリフが飛んでしまうようなことはなく、無事に終えることができたんです。ものすごい充実感とカタルシスでしたが、やっぱり“もうこんな生活はごめん!”という思いが強かったですね。稽古期間、何度舞台上で頭が真っ白になる夢を見たかわかりません(笑)」
この実録を聞いて、心理カウンセラーの渡辺晴美氏はこうアドバイスする。
「子どもが少し手を離れると、世間と切り離されていた『自分の取り戻し』の機会が訪れます。ストレス解消になり、楽しい間はいいのですが、参加される方のなかには、『自分の居場所を求めている方』や子育てや家事のストレスから逃げ出したいという『罪悪感』を持っている方もいらっしゃいます。このような感情を避けるために、さらにそこに執着し、そこでの役割に身を投じてしまう場合があるのです。熱心なサークルには、時として、こういう方がいらっしゃいますが、せっかく頑張ってきた育児から解放されたのに、違う場所でまた頑張ってしまうという悪循環に陥ってしまうので、そこは気を付けたいですね。“ママが心から楽しんで、自分らしく笑顔でいることが一番”ということを忘れずに、趣味を見つけたら、“思う存分楽しんでいいんだ!”と心から許可してあげましょう」
“ママが自分らしく笑顔でいられるのが一番!” 。ママから笑顔が消えたら、それはもはや趣味やストレス解消ではなく、家族を壊す可能性もあるので、潔く撤退することも選択肢のひとつなのかもしれない。
(取材・文/吉富慶子)