鑑定留置の意味とは?弁護士が場所、期間、その後の流れを解説

鑑定留置の意味とは?弁護士が場所、期間、その後の流れを解説

テレビや新聞などで「鑑定留置」という言葉を聞いたことはありませんか?

鑑定留置は、刑事事件において被疑者や被告人が精神障害などで刑事責任能力に疑念がある場合、彼らの身体を拘束し、精神科医による鑑定を受けるために病院などの施設に留置する処分です。これは刑事訴訟法第167条に基づいています。近年、裁判員裁判の導入後、鑑定留置の件数は増加しており、この言葉についての関心も高まっています。

この記事では以下の点について詳しく解説します。

鑑定留置とは何か?
鑑定留置の内容とは?
鑑定留置後の流れ

この記事が、鑑定留置がどのようなものか知りたい方のための手助けとなれば幸いです。

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1、鑑定留置とは?

(1)鑑定のために身体拘束する処分

刑事事件を犯すと、罪証隠滅や逃亡を防ぐ目的のために、逮捕され、その後、勾留という最大20日間の身体拘束がなされる可能性があります。

鑑定留置とは、逮捕や勾留と同じく、身体の自由を拘束する処分ではあるものの、刑事事件の被疑者・被告人の責任能力についての鑑定を行うことを目的として、病院などに留置する処分をいいます。

このように、逮捕・勾留と鑑定留置は、その目的を異にします。

一般的には起訴前になされ、検察官の請求を裁判所が認め、令状が発行されることで可能となるものです(刑事訴訟法第224条)。

起訴後は、裁判所の職権によって決定されます((刑事訴訟法第165条))

(2)責任能力がないと刑罰を科せない

鑑定留置をする際に問題となる責任能力とは、行為の是非を弁別し、それに従って行動を制御できる能力をいいます。事物の是非・善悪を弁別し、かつそれに従って行動する能力のない者に対しては、行為を非難することが出来ず、刑罰を科す意味に欠けるので、刑罰を科すには責任能力が必要です。

責任能力が欠けている状態としては、心神喪失と心神耗弱があります(刑法第39条)。

①心神喪失(刑法第39条1項)

心神喪失とは、精神の障害により、弁識能力(行為の是非を判断する能力)を欠くまたは行動制御能力(行動をコントロールする能力)を欠く場合をいいます。心神喪失の場合には責任能力が全くないため、刑罰が科されません。

②心神耗弱(刑法第39条2項)

心神耗弱とは、精神の障害により、弁識能力が著しく低いまたは行動制御能力が著しく低い場合をいいます。心神耗弱の場合には責任能力が一部認められるため、刑が減軽され上限は低くなるものの、刑罰を科すこと自体は可能です。

(3)簡易鑑定と起訴前本鑑定との違い

責任能力に問題があって起訴前に鑑定が行われる場合、簡易鑑定と起訴前本鑑定の2種類の鑑定があります。鑑定留置がなされるのは、起訴前本鑑定の場合です。

①簡易鑑定

簡易鑑定では、医師が拘留中の被疑者を検察庁などで診察し、責任能力についての意見を検察官に伝えます。短時間で終了し、窃盗などの軽微な事件で用いられることが多いです。簡易鑑定で判断がつかずに起訴前本鑑定に回されることもあります。精神鑑定の多くがこの簡易鑑定です。

②起訴前本鑑定

起訴前本鑑定では、約2~3ヶ月の長期間にわたって病院などで医師が診察し、結果を鑑定書にまとめます。期間が長期に及ぶため、裁判所の令状を得たうえで鑑定留置をします。起訴前本鑑定が行われるのは殺人などの重大事件であり、件数としては多くありません。

まとめると以下の表の通りです。

鑑定の種類

期間

場所

特徴

簡易鑑定

1日

検察庁など

・軽微な事件

・判断できなければ本鑑定

起訴前本鑑定

2~3ヶ月程度

病院・拘置所など

・重大事件

・簡易鑑定で不十分な場合

2、鑑定留置の内容

(1)鑑定留置で調べられること

鑑定留置では、精神疾患が事件に影響を与えたかを判断するために、医師が面接や検査を行います。

メインとなるのは面接であり、医師は、供述調書などの捜査資料を読んだ上で面接に臨みます。

面接で調べるのは、生い立ち、事件前後の生活状況、事件当時の精神状態などです。面接の補助として心理テストも用いられます。

身体的な問題が精神に影響を与えることもあるため、医学的な検査も必要です。

具体的には、脳の画像検査、血液検査、脳波検査などが行われます。

医師は鑑定が終わると結果をまとめ、精神疾患が事件に与えた影響についての意見を述べます。

起訴・不起訴を判断するのは検察官であるため、医師は責任能力の有無までは言及しないのが一般的です。

(2)鑑定留置の場所

鑑定留置の場所は法律の条文で「病院その他相当な場所」とされています。

病院は医師にとって鑑定がしやすいですが、警備が不十分でなく、被疑者が逃走してしまうという事例も過去にありました。

そのようなことがないように、警備体制の整った拘置所が鑑定留置の場所とされるケースもあります。

(3)鑑定留置の期間

鑑定留置の期間に定めはありませんが、2~3ヶ月とされることが多いです。

期間中は勾留の執行は停止され、勾留の日数としてはカウントされません(刑事訴訟法第167条の2)。鑑定留置は責任能力の有無の判断を目的としているため、原則として鑑定留置中に検察官による取り調べは行われません。

また、接見禁止がついていれば家族などは面会が許されず、弁護士だけが面会できることになります。

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