そんななか、同調査によると、ここ十数年で里親等への児童委託数が3倍近くに増えているというデータもある。
実際に里親になった人は、どういう過程でその決断をするのだろうか。里親体験を描いた『うちの子になりなよ』(イースト・プレス)の著者で漫画家の古泉智浩さんに聞いた。
●里親に、なぜなろうと思ったのか
「里親になろうと思ったきっかけは、不妊治療がうまくいかなかったことでした。当時、すでに10年くらい交際していた現在の妻と『できちゃった婚』をしようと、避妊せず子作りした結果、一度はすぐに妊娠。しかし、流産してしまい…。彼女が子作りを本気で希望したことから、不妊治療を受けるために入籍しました」(古泉さん 以下同)
しかし、「タイミング法」や「人工授精」を何度も試し、さらに「体外受精」と「顕微授精」もあわせて10回行ったものの、結果は得られずじまい。結局、6年間という月日と600万円もの費用を失ったそう。古泉さんは不妊治療への思いを次のように話す。
「女性の心身への負担は非常に大きいものですし、ただ徒労感ばかりがあり、何も残らないむなしいものでした。不妊治療をするなら、1年とか100万円など、期限や金額の枠を決めたほうが良いと思います」
●子どもが欲しくて欲しくてたどり着いた「里親」の道
そこで、古泉さんが奥さんに相談したのが「里子を預かる」ということだった。実は古泉さんには、元婚約者との間に、事情があって3回しか会えていない娘がいるそう。
「娘に会ってから、あまりの愛おしさに、子どもが欲しくて欲しくてたまらなくなりました。不妊治療の終盤には、もはや自分の子じゃなくても良いと、切羽詰まった思いになり、テレビで里親や養子縁組特集があれば必ず見るようになっていました」
さらに、「里子」を考えたきっかけには、元交際相手の連れ子をひとりで育てているシングルファーザーの友人に会い、その温かくステキな親子関係を見たこともあったそう。
とはいえ、「里子を預かる」という提案に対し、実子に対するこだわりがる奥さんは当初、あまり乗り気でなかったそう。
「しかし、不妊治療は妻の意見をほぼすべて受け入れてきたので、今度は僕の希望を聞いてほしいと頼んだのです」
長い不妊治療の末に児童相談所に相談に行き、夫婦での里親研修を経て、やってきた「里子」の赤ちゃんとの暮らしについて、古泉さんはこう語る。
「僕はそれなりに恵まれた生活をしていたと思うのですが、それでも心から幸せだと思ったことはこれまでなかったんです。もともと子ども好きだったわけでもないし。でも、赤ちゃんが来てからは、毎日が幸せで幸せで。表すなら、銀行口座に自動的に毎日100万円振り込まれているような気持ちです(笑)」
実子でないことも忘れるほど愛おしいという「里子」。古泉さん夫婦のように、子どもが欲しいと考えている人、不妊治療に疲れてしまった人にとって「里親」という制度は、ひとつの大きな希望になるかもしれない。
(田幸和歌子+ノオト)