新型出生前診断で胎児異常が判ったらどうする?

第3回 人に聞けない”新型出生前診断‎”のコト
妊婦の血液から胎児のDNAを採取し、3種類の胎児異常について陽性かどうか高い精度で判別する「新型出生前診断(以下、NIPT)」。血液採取のみという簡易的な検査ですが、もしも陽性だと診断されたらどうすればいいのでしょうか? 千葉大学医学部附属病院遺伝子診療部に聞きました。

●NIPTでは“偽陽性”のケースもある

NIPTの結果が陽性だったとしても、胎児異常がないのに誤って陽性と判定される「偽陽性」のケースもあるそうです。そのため、引き続き羊水検査などの確定検査を受ける必要があるといいます。

「ただ、陽性であっても妊娠を継続する場合には、羊水検査などの確定検査を受けていただく必要はありません。また、NIPTの結果が陰性だった場合には、『偽陰性』となるケースが非常に稀なため、ご夫婦の判断で、羊水検査を受けずに終了することができます」(以下、千葉大学医学部附属病院遺伝子診療部)

より精密な情報を知るには、母体に針を刺して羊水を吸引する羊水検査を実施することになるようです。

「もし、赤ちゃんの染色体について調べられることは全部知りたいという方は、NIPTを受けずに初めから直接羊水検査を選択されると良いでしょう」

新型出生前診断で胎児異常が判ったらどうする?

●検査結果の受け止め方は人それぞれ

しかし、羊水検査で胎児異常が確定すると、冷静に受け止めることは難しいのではないでしょうか。

「涙を流される方も、冷静に受け止めているように見える方もいらっしゃいます。ただ、同じような反応をしているように見えても、子どもを育てることについての考え方や、すでに子どもがいる・いないなどの家族背景、人生経験などによって、それぞれの方々の心の中での受け止め方や思いは異なります。ですので、おひとりおひとりの気持ちに寄り添う遺伝カウンセリングが大事だと考えています」

現在の法律では、胎児異常を理由に妊娠中絶することは認められていません。しかしなかには、母体保護法の解釈の拡大によって、妊娠の継続を諦めるケースもあるようです。

「もし胎児異常が判ったらどうすればいいのかということは、誰にも言えません。100%正しい答えはありませんが、長期にわたって医師や遺伝カウンセラーがフォローすることが大事です」

いまの医療では胎児異常を治療することは困難です。しかし、生まれてくる子どもを幸せにすることができるのか、実際に胎児異常で生まれてきた子どもや親はどのような暮らしをしているのか、生まれてくる前に考える時間を設けることができるという意味では、検査の意義は充分にあるといえるかもしれません。

(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)

出生前診断の理解を深める

出生前診断 (ちくま新書)
出生前診断 (ちくま新書)
西山深雪
820円
新型出生前診断(NIPT)が始まったが、どういう検査なのか、何がわかるのかが一般にも、医療関係者にもあまり理解されていない。いったいどのような考え方・心構えで検査にのぞめばいいのだろうか。本書は、出生前診断にまつわる事実をできる限り客観的に、わかりやすく解説し、診断を受けるべきか迷う人々に、考え方に応じた指針を与えるものである。好むと好まざるとにかかわらず、もはや出生前診断という技術に関与せざるを得なくなった現代人に、最新知識を提示する。
新型出生前診断(NIPT)が始まったが、どういう検査なのか、何がわかるのかが一般にも、医療関係者にもあまり理解されていない。いったいどのような考え方・心構えで検査にのぞめばいいのだろうか。本書は、出生前診断にまつわる事実をできる限り客観的に、わかりやすく解説し、診断を受けるべきか迷う人々に、考え方に応じた指針を与えるものである。好むと好まざるとにかかわらず、もはや出生前診断という技術に関与せざるを得なくなった現代人に、最新知識を提示する。
出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来 (朝日新書)
出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来 (朝日新書)
河合蘭
885円
70年代に始まり、次々に登場する胎児診断技術。黎明期から最先端事情まで、取材で浮かび上がる出生前診断の「全容」。晩産化が進み、産科医療も進歩するなかで、多くの女性たちが重い問いに対峙し、葛藤している。体験者の生の声、医療者の賛否両論に日本で唯一人の出産ジャーナリストが迫る。
70年代に始まり、次々に登場する胎児診断技術。黎明期から最先端事情まで、取材で浮かび上がる出生前診断の「全容」。晩産化が進み、産科医療も進歩するなかで、多くの女性たちが重い問いに対峙し、葛藤している。体験者の生の声、医療者の賛否両論に日本で唯一人の出産ジャーナリストが迫る。
新型出生前診断と「命の選択」 (祥伝社新書)
新型出生前診断と「命の選択」 (祥伝社新書)
香山リカ
842円
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」が、二〇一三年四月から日本でも始まった。また、遺伝子を調べることによって、将来発症しやすい病気や確率も判明するようになっている。このような医療技術の進歩は基本的には望ましい。だが、最新技術が命に関わる領域に踏み込んだことで、患者と家族は大きな選択を迫られるようになった。その結果、自らの判断が正しかったのか悩む人が増えている。それに対して私たちはどう考えればいいのだろうか。医学の進歩に、心のケアや倫理は取り残されていないだろうか。現状と課題を、精神科医の立場から考える。
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」が、二〇一三年四月から日本でも始まった。また、遺伝子を調べることによって、将来発症しやすい病気や確率も判明するようになっている。このような医療技術の進歩は基本的には望ましい。だが、最新技術が命に関わる領域に踏み込んだことで、患者と家族は大きな選択を迫られるようになった。その結果、自らの判断が正しかったのか悩む人が増えている。それに対して私たちはどう考えればいいのだろうか。医学の進歩に、心のケアや倫理は取り残されていないだろうか。現状と課題を、精神科医の立場から考える。

ピックアップ

【専門家に聞く】新型出生前診断‎、受けるべき?
【専門家に聞く】新型出生前診断とはどんな検査?