これは、病気やケガより頭髪に悩みを抱える子どもたちの医療用ウィッグのために、自分の髪を寄付するというもの。
いったいどんなきっかけで始まったものなの? 100%寄付された髪の毛で医療用ウィッグ「Onewig」を作り、無償でプレゼントしている特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity 通称「JHDAC(ジャーダック)」代表の渡辺貴一さんに聞いた。
「JHDACを法人設立したのは、2009年9月1日。もともと美容師である自分にとって、『髪は切った瞬間にゴミになってしまう。ただゴミになるのは、もったいない。これは世の中の役に立つのではないか』と考えたのがきっかけです」(渡辺さん 以下同)
せっかくの技術を、ただお金儲けだけに使うのは勿体無い。そこから何か社会に還元できないか? “髪への恩返し”ができないか? ということから、美容師にできる方法として思いついたのが「ヘアドネーション」だったという。
●周知活動はゼロ。寄付した人たちの善意から広まった
しかし、渡辺さんいわく「もともと単純な動機で始まった」活動であり、何の周知活動もしてこなかったそう。では自然に広まっていったのは、なぜなのか。
「髪を寄付してくださる方たちが『ほかの美容師さんにもっと知ってもらったら?』などと広めてくれたのです。もともとロングヘアには高いシャンプーやドライヤー、美容室代など、たくさんのお金がかかっているもの。『切った髪がゴミになるのはもったいない』と感じている女性たちの潜在需要が多かったのだと思います」
加えて、最初のウィッグを提供したのが、震災直後というタイミングだった影響もあると話す。
「震災以降、生き残った人たちの中には『人の役に立ちたい』という感情が生まれました。現在ではそうした感情を、全国民の7割以上が持っているといわれています。そんな思いが『ヘアドネーション』という活動に結びつき、さらにスマホの普及やSNSの広がりによって浸透していったのだと思います」
100%寄付された髪で作られる医療用ウィッグには、大変な手間やコストがかる。そんななか、医療用ウィッグを待つ人は現在100人以上にものぼるそう。
タダで人の役に立てる「ヘアドネーション」。誰にでもできるボランティアとして、今後ますます広がりを見せそうだ。
(田幸和歌子+ノオト)