【郷土食】うきうきしながら食べるもの 、それが"つけあげ"_鹿児島県・いちき串木野市

【郷土食】うきうきしながら食べるもの 、それが"つけあげ"_鹿児島県・いちき串木野市

鹿児島市内から車で約40分、ちょっと足を延ばしていちき串木野へ。つけあげ発祥の地といわれ、自宅の冷蔵庫にはいつもつけあげがあるというほど暮らしに密着。おやつに、おかずに、つまみにもなる、そのつけあげ文化をご案内

日々の暮らしはつけあげとともに

「寺田屋」のつけあげは生姜、ニラ玉、クリームチーズなど種類豊富。一番人気の昔ながらの上揚げは3枚入り312円。揚げたては月・木の夕方16:00頃~

東京で口にしないことはないけれども、居酒屋で誰かが注文したものがあったら食べる程度。それが鹿児島で「つけあげ」と呼ばれる「さつまあげ」に対する認識だった。のだけれど、今回、訪れたいちき串木野で見方が一気に変わった。つけあげは、うきうきしながら食べるものだと。

鹿児島のつけあげはしっかり甘い。いちき串木野のものはその上をゆく。「いちき串木野のつけあげの特徴は甘さと豆腐を入れることです」と言うのは、最初に訪れた専門店「寺田屋」の寺田成弘さん。食べてみると、しっかりとした甘さは伊達巻きのよう。さらに魚のすり身がきめ細かいからか、予想以上に軽やかでふわふわしている。

創業75年「寺田屋」の寺田成弘さん、加世さん兄妹。春は菜の花、5月はたけのこ、夏はしそ×オクラ、ゴーヤなどが登場

ポイントは、材料のヒメジ、キントキダイなどの白身魚のすり身を20?30分、石臼で練って粘りを出すこと。豆腐は全体の3割と多めに入れる。さらには、鹿児島で「地酒」と呼ばれる灰持酒も欠かせない。もろみの発酵途中で灰汁を入れた日本酒を勢いよくどばどばと加える。なめてみると、甘みやうまみ、酸味とともに古酒のような香りがあって、つけあげを風味豊かにしている気がする。

「松下商店」のいも天はじっくり15分ほど揚げる。「芋の切り方と生地とのバランスで食感が変わる」と言い、いも天は姉の照美さんが1人で担当する、こだわりの品

灰持酒とともに甘酒を入れることでさらなるうまみとコクを出しているのが「松下商店」だ。「串木野市内でつけあげやかまぼこを加工販売している大手製造会社で社長をしていた父が定年した30年前にこの店を始めました。父の唯一の趣味が“つけあげ”だったので」と朗らかに笑うのは松下育代さん。

名物はいも天。多くの店がふかしたサツマイモを使っているところ、こちらでは大きめにカットした生の紅さつまを、スケソウダラとヒメジのすり身と合わせてじっくり時間をかけて揚げている。できたてを頬張ると、香ばしく揚がったすり身から、ほくほくでジューシーないもが顔をのぞかせた。

「昔からおやつはいつだってつけあげでした」と言うのは、松下商店の松下通広さん、育代さん夫婦。お姉さん照美さんと一緒に働いている

1枚から販売しているが、5枚入り、10枚入りでパッケージされたときの存在感が素晴らしい。たしかにこれが冷蔵庫に入っていたら、うきうきしながら食べたくなる。

「赤崎水産」のつけあげは、鮮魚店のお惣菜のひとつとして販売されている。すり身にする魚は仕入れによって変わるため、食感は日によって違うけど、青魚と白身魚の割合が1対3という分量は変わらない。

使い込まれた鉄鍋で揚げる「赤崎水産」のつけあげは、具なしの1 種類のみ。仕入れた魚を店でさばいて、すり身から丁寧につくりあげる

この日の魚はアジ、サバ、イワシ、鯛、エソ。生の魚をさばいてすり身にして味付けした生地を、赤崎ひとみさんは、目分量ならず手分量で、ひとつひとつ小判型に成形していく。水をつけて優しくなでつけ、形を整えてから鉄鍋へと投入する。厚みがあるので、中火でじっくり揚げる。

豆腐とともに、みりんや薄口醤油、喜界島産粗糖、生姜の絞り汁が入ったつけあげは、しっかりした甘みとともに魚のうまみが詰まっていて後口爽やか。青魚率が高いから、つみれのような味わいかと思いきや、やっぱりしっかりつけあげだ。


「赤崎水産」ではその日仕入れた魚が並ぶショーケースの奥で、幸喜さん、浩志さん、忠宏さん3兄弟がテンポよく魚をさばいている

「40年前にレシピを考案したお母さんの味を忠実に再現しています」と快活に笑うひとみさんの向こう、カウンターの中ではつけあげ用の魚がどんどんさばかれていく。

いろいろな店を回ってわかったことは、揚げたてのつけあげはもちろん最高だけれど、冷えても十分おいしいということ。冷蔵庫に入れておけば身がしまってより魚感が楽しめる。温め直す必要はもちろんないし、醤油をつけなくていいほど味が完成されている。いちき串木野の人たちが、つけあげに熱くなる気持ちがわかってきたぞ

あの店のあのつけあげ!指名買いリスト1:榎木家の場合

関連記事: