正常な動作に必要な感覚や運動能力
「例えば、『文字を書く』ためには、手も頭も記憶も目も使いますし、体が安定していなければならない。学習障害(LD)の子などには、きちんと文字の形を把握する能力があるか、それを記憶する力があるか、記憶していたものを書くときに安定した姿勢を保てているかなどを見ます。肩やひじや手首など、全身がきちんと安定していないとペンを持つ手先も使えません」
さらに、眼球の動きが悪い場合や、首を動かさないと文字を追えないという場合も、学習が困難になります。
「学習障害の子は言語面の問題を指摘されると思いますが、感覚や運動の能力に問題があるために、困難なことが起きていることがあるのです。『成績が悪い』と言われている子どもたちの中にも、もしかしたら「発達障害」を持っている子たちが混じっているのかもしれませんね」
工夫が重ねられた訓練
作業療法では具体的に、どのような訓練が行われているのでしょうか。
「まず、その子にとって何が難しいのかを検査・チェックし、原因を探って、それを埋めていく作業をします。先ほど例にあげたお子さんでは、『文字が書けない』ということが姿勢と関連があるのなら、鉄棒やぶら下がり、手押し車や腹筋・背筋のトレーニングなども取り入れます。形の識別が必要な子にはパズルや工作など、そのための訓練もしますし、手先に問題がある子にはコマやちぎり絵などの遊びや、鉛筆にクリップをつけて、手のアーチをつくる練習などもします」
実は、私自身も取材中にペンを持つ指先の力が弱いのでは、というご指摘を佐々木さんよりいただきました。幼い頃より悩んでいた不器用さは、指の力が弱いせいだったのかも……と目からウロコが落ちる思いでした。
「手のアーチが形成されていないのは、これまでの発達過程の中でうつぶせになったり、ぶらさがることが少なかったことも原因のひとつとして考えられます。また、はいはいをあまりしないと、体幹が安定しません。その場合は、手足を使って登ったり掴んだりする遊びを取り入れていった方がいいですね」
その子にとって使いやすい道具を選び、段階を踏んで進める
発達障害には、早い対応が大事
療育のスタートは、早ければ早いほど良く、本来ならば就学前が良いと佐々木さんは言います。
「ペンの持ち方などは自分なりのやり方ができてしまうと、後から直すとなるととても大変です。また、学習の問題を持っているのに見逃されてきた子は、学校に行ってもわからないことだらけになってしまい、だんだんと学ぶ意欲をなくし、「どうせ自分なんか」と自己評価も低くなってしまいます。中には学校に行きたくなくなってしまう子もいます。気がかりがあったら早くから相談して、子供の能力を伸ばしてあげたり、関わりを変えてあげた方が絶対にお子さんのためになります」
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取材協力
勤務開始当初から、自閉症、発達障害のお子さんやご家族との出会いがあり、当時は感覚統合療法が支援の主な方法だったため、感覚統合療法を学ぶ。その後、感覚統合療法の認定を受け、現在は日本感覚統合学会のインストラクターとして活動。
現在勤務の療育センターでは、発達障害といわれるお子さんだけでなく、脳性麻痺などの体の不自由なお子さんなど、さまざまな障がいをお持ちのお子さんの作業療法を行っている。
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