若者に聞いた「どんな上司が一番怖い?」の意外な結果。自分からは動けない「若者の感覚」

若者に聞いた「どんな上司が一番怖い?」の意外な結果。自分からは動けない「若者の感覚」

1on1をして少し経ったころ、部下が前兆なしに退職をした…そんな話を聞いたことはありませんか? 若者たちが退職する裏には、彼らの世代特有の悩みが隠れているかもしれません。金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏は、著書『静かに退職する若者たち』にて、若者目線からこの問題に向き合い、上司や先輩の課題に寄り添いました。新卒や第二新卒の入社を控えたいま、世代間における価値観の差や求められるスキルについて考えてみませんか。
※本記事は金間大介著の書籍『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。

飲みニケーションが真価を発揮するとき

ここで世代間を越えたコミュニケーションについて、皆さんがなんとなく思っていることを1つ、はっきりとさせておこう。
「最近は、コロナとかハラスメントとかのせいで、すっかり飲み会の場が減った」
「いや、仮にコロナがなくて、飲む機会が減らなかったとしても、それを機に世代間の関係性が深まるなんてことは、最近はないんじゃないかな。今の若者は飲み会の場だからって心開いたりしないと思うよ」
なんていう会話が、あったりなかったり。
30代以上の皆さん、せっかくだからここで僕と約束してみませんか?
もし若手と飲み会に行くときは、彼らが行きたいと思うまで待つこと、というのはどうでしょう?
若手の中の元気な1人が言い出すだけではなく、若手の半数程度がそう感じるまで待つこと。
その半数も、「まあ行ってもいいかな」という程度ではなく、「ぜひ、じっくり話したい」と思うレベルまで待つこと。
なぜ半数程度なのかというと、誰か1人が言い出せば、自分の意思とは関係なく便乗しておくのが正解と考える若手が多いためだ(そんなときは、言い出した1人との「さし飲み」を強く推奨します)。
どのような形であれ、とにかく若手からそのような話が伝わってくるまで待つこと。
若手にとって、一緒に食事や飲み会をしたい(してもいい)と思う対象は、大きく分けると2通り。「無害な人」と、「興味がある人」。
割合的には、圧倒的に前者の無害系が多い。ただ今は、後者の興味の対象となる人の話をしている。
いい子症候群の若者たちにとって、仕事に熱意を持った上司や先輩は怖い。それだけで圧になる。
しかし、それには前提条件がある。圧になるのは、若者に対峙した上司や先輩社員たちだ。
対峙とは、向き合っている状況。そうではなく、同じ方向を向いた先輩たちはちょっとカッコいい。頼もしい。話したい。(もしかしたら)一緒に飲みたい。
ぜひそう思われるまで、飲みニケーションは温存しませんか。
そしてその日が実現した暁には、あなた自身の素直な気持ちを語ってあげてほしい。
それはもちろん、盛りに盛った「武勇伝」ではない。
では何を語るか。もし今から準備していただけるのなら、次の質問に対する回答を、あなたの後輩のために用意してあげてほしい。
問①:あなたは今の仕事が好きですか?
問②:あなたは今の仕事の、どこの、何が、どれくらい好きですか?

部下にとっての「最恐の上司」とは?
以前、学生たちと「どんな上司が一番怖いと思うか」について議論を重ねたことがある。
世の中には、理想の上司像や、避けたいと思う上司像に関するアンケートはよく見るが、怖い上司像というのはあまり存在しない。
ということで、学生たちを集めて検討した。4限(4コマ目)の終わりに、空き教室を確保して、椅子と机を動かして。お菓子を買い込んで。
簡潔に結果を見ていこう。
真っ先に出たのは「怒る上司」だった。
それに続いたのが「気分屋。機嫌がコロコロ変わる上司」。
まだちょっと物足りない。僕はもっと彼らの本音を引き出したい。学生が買ってきてくれたチョコパイを食べながら、とにかく質問する。
そもそも怖いって何だ?
「確かに。何だろう?」(全員)
「例えば金間先生は怖い側だよね(女子)」
「そうかなあ(女子)」
「いや、間違いない(男子)」
「でもチョコパイ食わせとけば大丈夫(男子)」
とか言っている。居心地が悪いので、質問を続ける。
そういえば、後輩も怖いんだっけ?
「それこそ間違いない(男子)」
「特に仲良くなる前。自分らより頭良さそうだから(女子)」
「金間先生」と「後輩」が怖いラインの同一線上に並ぶのは、全くもって合点しがたい。
しかもその対策が、金間先生→チョコパイ、後輩→仲良くなる、という結論にも納得しがたい。
そう思っている間に議論は進み、最終的に浮上したのは「最も怖い上司=頭のいい上司」だった。
どんなに人柄が良くて、普段は優しかったとしても、「頭のいい上司に、仕事中に話しかけるのは緊張する」というのがその理由。
ちなみに、学年や性差を考慮し、メンバーとお菓子をチェンジして実施した2回目の検討会も、ほぼ同じ結果になった。
その際の(2回目の)結論は「完璧な上司」。
理由は1回目とほぼ同じなので省略する。
なぜ完璧な上司が怖いのか
今、「(頭のいい上司に)仕事中に話しかけるのは緊張する」と書いたが、これは学生ならでは、というわけではないらしい。
101ヒアリングでは、「多忙そうな上司に対し、口頭で報告したほうがよさそうな案件があるとき、あなたはどうするか」という問いを立てた。特に若手の回答には次のような例があった。
・報告したい案件があるので、上司から声をかけてもらうようメール(チャット、メッセージを含む)をする
・今、報告してよいかメール(チャット、メッセージを含む)をする
・どのようなタイミングで行くのがいいか、先輩に確認する
仕事のわりにはずいぶん遠回りだ。
もちろん「すぐに報告する」という人もいたが、明らかに少数だ。印象としては、特に1つ目を選ぶ人が多かった。
僕は問いの中に「多忙そうな上司に対し」と、あえて1つ壁を設けたが、これを取り除いたとしても、似た結果になっただろう。そもそも人は、何かをしているだけで(例えばスマホを見ているだけでも)忙しそうに見える。
この話、きっと上司や先輩であるあなたも、部下と似た態度を経験しているのではないかと推測する。そんな態度を見てるから、「いつでも来ていいからね」と、あえて伝えておいたりして。
僕は皆さんと会ったことがない。
でも僕が想像するに、部下から見たあなたはきっと優しい。気分屋でもない。
それでもなお、若手があなたに報告するのをためらう理由は何か。
それは、あなたが「優しくないから」でも「気さくじゃないから」でもない。
それは、あなたが「ちゃんとした上司」だからだ。ちゃんとした上司は頭が良くて完璧だ。だから部下は、とにかくチェックされるということで頭がいっぱいになる。それだけでもう「怖い」と感じる。
あなたがどんなに開放的で、オープンな空気を作っても、仕事となればきっと関係ない。
だから若手は「報告に行くのは怖いので、向こうから来てほしい」と言う。
「何を甘いことを」と思う読者も多いかもしれないが、僕は(本書全体を通して)若者の立場でものを言っている。
自分からは動かず、とにかく待つ。締切りが来ても、話しかけられるか、メールをもらうまで待つ。
すぐドアの向こう側にいるのに、「報告したいことがあるので、お手すきの時にお声がけ下さい」とメールを入れる。
これがいい子症候群の若者の感覚だ。

金間大介
金沢大学融合研究域融合科学系教授。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。一般社団法人日本知財学会理事。北海道札幌市生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学経営情報学部、東京農業大学国際食科情報学部、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系、2021年より現職。主な著書に、『モチベーションの科学 知識創造性の高め方』(創成社)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)など。

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