「終活のように自分の死をコントロールするのは現代の病」医学博士・養老孟司さんが考える「死」の種類

「終活のように自分の死をコントロールするのは現代の病」医学博士・養老孟司さんが考える「死」の種類

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※本記事はみんなの介護 (監修)著の書籍『クチコミ付きで施設選びに失敗しない! 全国老人ホームガイド』(KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

“終活”のように死をコントロールするのは現代の病

医学博士ながら医療システム、現代社会の在り方にも時に批判的な目を向ける養老孟司さん。そんな養老さんが考える死とは?

――ご自身の「老い」を自覚することはありますか?
養老孟司さん(以下、養老):僕が初めて「老い」に気付いたのは、60代になって会合に参加し、自分が一番年上だということに気付いた時です。「老い」というものは、自分でそう感じるのではなくて、人と比較したり、人に言われたりして気付くものだと思います。
――自分の「老い」はことさら大げさに考える必要はない?
養老:そうだと思いますよ。「介護」についても同じこと。考えても、キリがありません。大事なのは、介護が必要になった時、その状態を受け入れる気持ちが持てるかどうかということでしょ? だけどそれは、なってみないとわからない。なぜなら、「その状態になる前の自分と、なってからの自分は違う」から。
人間が老いるというのは自然現象で、だからこそ、なってみてその場で考えればいいんです。そんなこと言うと、「無責任だ」と言われるかも知れないけど、そうした自然現象に責任を持つのは、本当に難しいことだと思います。
――ご自分の死を考えることは?
養老:いやぁ、あんまり考えないですね。どうでもいいと思ってます。死を3つの種類に分けて考えるとわかりやすい。一人称の死、二人称の死、それから三人称の死です。自分の死というのは一人称の死です。死んだら意識がなくなるんだから、考えたって意味のないことなんですよ。なのに最近は、「終活」ブームなんて言って、生きているうちに自分の死をコントロールしようとする人が増えているでしょう。これは、「自分は何でもわかる」と思い込んでいる現代人の病だと思いますね。自分がいつ、どんなふうに死ぬかなんて、誰にも予測できません。

父の死から40年たって、僕の中で初めて死を受け入れた
――三人称の死についてはどのように考えていますか?
養老:三人称の死は、彼ら彼女らの死だから、今こうしている間にも世界中のあらゆる所で起こっています。そういうことに気を取られてしまうと、日常生活を普通に送れない。だから、ほとんどの人が三人称の死は自分と無関係だと思って過ごしているはずです。
――二人称の死は、知人や肉親など、自分の親しい人の死ということになるのでしょうか?
養老:そうです。一人称と三人称の死は、考えても仕方のないことだけど、二人称の死はそうはいきません。相手が親しい人であればあるほど、心に深い傷を負うから。僕の父の話をしましょうか。父は僕が4歳の時に結核で亡くなりました。自宅で亡くなったんですが、父は僕ににっこりと笑顔を見せて、その直後に喀血(かっけつ)して亡くなったんです。
その時、周囲の大人に「お父さんにさよならを言いなさい」と促されたんだけど、言えなかった。この時の光景は、映画のワンシーンのように時々記憶にふと甦ってきたりしたものです。
それから社会人になっても、僕は人に挨拶をするのが苦手になってしまった。家に母親の友達が来ていたりしても、「こんにちは」も「いらっしゃい」も言えずに後で怒られるわけです。それが父親の死と関係があることに気付いたのは、40代半ばになって、通勤途中の地下鉄のホームにいた時。突然、「そうか、あの時親父に『さよなら』を言えなかったから、自分はこうなったんだ」と。それは、僕の中で初めて父親が死んだ瞬間で、それと同時に涙があふれてきました。
――お父さんの死を受け入れるのに40年もの月日がかかったのですね。
養老:そうです。だから、「終活」なんてバカバカしいと言うんです。自分の死を受け入れるのは、自分じゃなくて、子供や配偶者や知人や身内たち。こうして欲しいとか、ああして欲しいなんて願望が叶うはずがないんです。

養老孟司
1937年、神奈川県生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。『バカの壁』(新潮新書)などのベストセラーも持つ。

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