「ゝ」や「々」には名前がある! 繰り返しを意味する5種類の文字・符号の名前と使い方

「ゝ」や「々」には名前がある! 繰り返しを意味する5種類の文字・符号の名前と使い方

ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?
※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。

「やゝ」「人々」の「ゝ」「々」は何と読むのですか
(回答=田中牧郎)

手書きと縦書きの衰退で見かけなくなった「踊り字」
同じ文字を繰り返すときに用いる文字や符号には、「ゝ」「々」のほかにもいくつかあり、まとめて「踊り字」あるいは「繰り返し符号」などと呼びます。パソコンやスマホなどの入力の際、仮名漢字変換の必要から、読み方が話題になる機会が多いようですが、手書きや縦書きの衰退で、使われる場面は急速に狭まってきています。
次のようにいくつかの種類に分かれ、それぞれに独自の呼び名と使い方の習慣があります。①から⑤は、文字というより符号ですから読みはありませんが、⑥は漢字の一種で読みをもっています。
① 一ツ点(ひとつてん) ゝ ゞ ヽ ヾ
仮名一字の繰り返しに用います。「こゝろ」のように平仮名の繰り返しには「ゝ」、「学問ノスヽメ」のように片仮名の場合は「ヽ」が普通です。濁音で繰り返す場合は、「たゞ」「トヾ」のように「ゞ」「ヾ」となります。
② 同(どう)の字点(じてん) 々
「先々」「正々堂々」のように、漢字一字を繰り返す際に用います。現在、横書きでもよく使われます。「ノマ」と呼ぶこともありますが、形を分解した呼び名です。
③ 二(に)の字点(じてん) 〻
「愈〻(いよいよ)」「益〻(ますます)」のように、ある決まった語において、漢字一字の繰り返しに用いられることがありますが、主として縦書きの場合です。繰り返しを意味する「二」をくずした形であるので、この呼び名があります。最近では「愈々」「益々」と書くことも一般的です。
④ くの字点(じてん)


(※文中では★)
「よく★」「知らず★」など、二字以上の繰り返しに用います。濁音にして繰り返す場合は、「くれ★も」(※くの字点に濁点)のように書きます。これも、形に着目した呼び名です。
⑤ ノノ点(ののてん) 〃
図表や箇条書き風の文章のなかで、「上(右)に同じ」という意味で使われます。
 (例)春季募集 三月三十一日締め切り
    秋季 〃 十月 〃〃
⑥ 仝(どう)
「仝」は、「〃」と同じように使われます。ただ、「仝」は「同」の異体字で、「ドウ」という読みをもち、漢字の一種です。
こうした踊り字の形や使われ方は、手書きによる縦書きのなかで培われてきた習慣によるものです。活字では、新聞の多くは「々」「〃」以外は使わないように定めていますし、最近では横書きや、パソコンやスマホなどによる文章の入力が普及してきたために、様々な踊り字を使い分ける機会は少なくなってきました。しかし、手書きで手紙を書く場合など、踊り字の適切な使用が求められる場面も残っています。

万葉集にも「何時毛〻〻〻」と使われている
それぞれの使い方についての詳細は、文部省「くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕(案)」を参照してください*1。なお、「々」は符号ではありますが、「佐々木」「奈々子」など、姓名に用いてもよいことになっており、「佐々木」と「佐佐木」は、戸籍上では区別されています。
踊り字の起源は古く、中国の殷(いん)の時代から、「=」の形が、漢字を繰り返すことを表すものとして、見られます。日本でも奈良時代以前から使われています。万葉集に、「何時毛〻〻〻」(いつもいつも)とあるなど、二字以上の漢字の繰り返しにも用いられています。平安時代に、平仮名・片仮名がつくられると、仮名の繰り返しにも、はじめは「〻」が用いられましたが、これを略して「ゝ」や「ヽ」の形になったと言われています。

それぞれの形や用法の歴史については、まだ十分な調査が行われていませんが、「★(※くの字)」の形の由来は、当時書かれたままの資料が豊富に残っている、漢文に読み方(訓点)を書き入れた文献(訓点資料)の調査によって、興味深い事実が明らかになっています。
二字以上の繰り返しでは、はじめ「マ、スヽ」(マスマス)のように書いていました。この、一点めの「、」と二点めの「ヽ」がつながって、図2の真ん中のようになり、さらに起筆が二字めの後に下りて、「マス★(※くの字)」と変化し、「★(※くの字)」が成立しました。

ノノ点「〃」は、西洋語や中国語において繰り返しに用いられている例があることから、外国語に由来するものと言われています。
*1―文部省教科書局調査課国語調査室(1946)「くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕(案)」文化庁参考資料。現行の漢字字体にしたもの。()
*小林芳規(1967)「踊字の沿革續貂(ぞくちょう)」『広島大学文学部紀要』27巻1号()
*中田祝夫(1954)『古点本の国語学的研究 総論篇』大日本雄弁会講談社

回答者:田中牧郎

明治大学 国際日本学部 教授。専門は、日本語の歴史、日本語の語彙。国立国語研究所には、1996年から2014年まで在籍し、日本語コーパスの研究や、「外来語」や「病院の言葉」を分かりやすく言い換える研究を担当。

 

編者:国立国語研究所

昭和23(1948)年に、日本人の言語生活を豊かにする目的で誕生した、日本の「ことば」の総合研究機関。 ことばの専門家が集まり、言語にまつわる基礎的研究および応用研究を行う。 平成21(2009)年10月に大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所となり、大学に属する研究者とともに大型の共同研究・共同調査を行うなど、さらに活発な活動を展開。略称は国語研、NINJAL。

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