お貞にそっくりな少女と出会う
長尾は旅の中で伊香保の村につきました。泊まった宿で彼の給仕をした若い女の顔を始めて見たとき、かれはこれまでにないほど胸がどきどきしました。お貞にそっくりなのです。彼女の立居振舞は、若いときの約束の少女の記憶を呼び覚ましました。それに、彼女の声は美しくて悲しく、在りし日を思わせるのでした。
不思議に思った長尾はこう問いかけます。
「あなたは昔、私の知っていた人にあまりによく似ているので、あなたがこの部屋へ入ってきたとき、びっくりしましたよ。それて失礼だが、あなたの郷里と名前をきかしてください」
するとお貞の声で女は答えました。
「私の名はお貞です。そしてあなたは私の許嫁の夫、越後の長尾長生さんです。十七年前、私は新潟で死にました。それからあなたは、もし私が女のからだをしてこの世にかえって来れば、私と結婚するという約束を封書にして、私の名のある位牌のわきに納めました。それで私は帰ってきたのです」
こう言うと彼女は意識を失ってしまいました。
長尾は彼女と結婚しました。その結婚は幸せなものでした。しかし、その後、彼女が伊香保で何を言ったかを思い出すことは一度もなく、前世についても何も覚えていなかったということです。
(おわり)
\ココがポイント/
✅旅の途中で立ち寄った温泉宿でお貞そっくりの給仕に出会った
✅長尾が尋ねると、娘は自分はお貞なのだと話した
✅二人は結婚したが、伊香保で何を言ったのかを娘が思い出すことはなかった
子どもと「お貞のはなし」を楽しむには?
若くして死に別れた男女が時を経て再会し、今度こそ一緒になり幸せに暮らしたというお話でした。生まれ変わりをモチーフにした話は今も人気ですよね。昔はこういう不思議なことが今よりももっと身近に、人々の間で語られていたのかもしれません。
お子さんには
・大切な人が死んでしまったら、生まれ変わって会いに来てほしい?
・もう一度会えるまで10年、20年かかっても待つことができる?
・運命の相手はいると思う?
などと聞いてみましょう。
お貞のセリフはぜひ感情を込めて話してみてくださいね。
配信: マイナビ子育て