朝ドラ『虎と翼』、ドラマで描かれない男子生徒とのトラブル! 寅子が激怒しそうな入学式「祝辞」とは? 

ドラマに出てこない、女子部の指定制服

 明律大学女子部は、戦前の昭和4年(1929年)に開校した明治大学専門部女子部(以下、明大女子部)をモデルにした学校です。この学校の記録から、当時の女生徒たちの実態を振り返るとなかなか興味深いことがわかりました。

 まず気になる男子生徒との軋轢についてですが、明律大学のモデルが明治大学というリベラルな校風のある名門校ということで、あまり表立ったトラブルなどはなかったようです。しかし、男子学生から女生徒が冷やかされる事件が起きた記録はやはりあって、それは開学当初、通学には必須とされていた女子用の制服が問題だったらしいのです。

 ドラマでは出てきませんでしたが、明大女子部の指定制服は、現代日本の女子大生の就活ルックのようなスーツ姿に、なぜか当時の大学生のシンボルである角帽を被ったものを想像していただくとわかりやすいと思います。

 ドラマでは小林薫さん演じる穂高教授(モデルは、渋沢栄一の孫の経済学者・穂積重遠)同様、明大女子部の発足と運営に尽力した現役の弁護士で、学校の教壇にも立った松本重敏という人物が、早稲田大やイギリス・ケンブリッジ大の男子学生の角帽を気に入っており、女子生徒にも被らせてみたのでは……という証言もあります。

 当時としてはかなりユニセックスな装いですが、「学問の前には男女は関係ない」というメッセージがこめられていたように感じます。

 しかし、女性がそういう姿をすることが男子生徒には不評で、それゆえに冷やかされるという事件が発生したようですね。女子生徒も次第に学校指定の制服ではなく、着物もしくはカジュアルな洋服で通うようになったそうで、男子学生とのトラブルは少なくなったと考えられます。当時の男性、そして女性の意識を知る上で興味深い逸話です。

明大女子部と男性生徒は基本的にかかわらない?

 男子学生からの反発については、筆者が読んだ『明治大学専門部女子部・短期大学と女子高等教育』(明治大学短期大学史編集委員編/以下、前掲書)が、大学側による「公式資料」だったこともあるかもしれませんが、他の史料でも、発足当初の明大女子部の女学生と明大の男子学生は基本的には没交渉で、あまりやりとりがなかったともあったので、お互いに距離を置いて、かかわらないようにしていたくらいが史実に近いかもしれません。

 また、史実の明治大学は、その当時からリベラルな校風を誇る大学だったことは明言しておきます。これは明大女子部開校から10年以上のちの太平洋戦争中と思われる証言になりますが、明大の男性生徒たちにまじって英語のサークルにふつうに参加できたというものもありました(前掲書、鍛冶千鶴子「時代を拓いた明大女子部 その果たした役割」)。

 本来なら当時は戦時中ですから、英語は「敵性語」です。サークル活動も禁止だったはずですが、それが秘密裏にせよ行われていたという回想からも、明治大学のリベラルな体質が想像できますし、おそらく男女の軋轢はドラマで描かれるように大学の中というより、大学の外に出たときのほうが大きかったのではないでしょうか。

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