注目を集める「卵子凍結」って?【生殖医療専門医×出産ジャーナリストCROSSTALK】

注目を集める「卵子凍結」って?【生殖医療専門医×出産ジャーナリストCROSSTALK】

妊活と仕事の両立、卵子凍結、出産費用の保険適用など、これから結婚や妊娠を考える2人にとって気になる話題をクローズアップ!
今回のテーマは、「卵子凍結」について。
不妊治療の最前線で活躍するドクター・市山卓彦先生と、妊娠・出産の現場を見つめ続けるジャーナリスト・河合 蘭さんに、妊活の“今”と“これから”について語り合っていただきました。

35歳未満なら決断をあせらなくてOK

――将来の不妊への心配から卵子凍結を行う女性が増えています。

■市山卓彦先生(以下、市山):卵子凍結を希望して来院される20代半ば〜39歳の女性に話を聞いてみると、「卵子凍結をしておけば安心」「何となく不安だから卵子凍結したい」という声がすごく多いんです。でもいちばん重視すべきは、赤ちゃんを授かるまでの期間をどのように考えているかというライフプランと、妊娠するための力=妊孕性。一般的に妊孕性が落ちてくるのは35歳頃からといわれていますが個人差もあります。まずは自身の妊孕性を知り、その後のライフプランがイメージできれば、卵子凍結を急がなくてよい場合も多いです。

■河合 蘭さん(以下、河合):今、卵子凍結に関する情報の多くが、20代での凍結を推奨しているかのような書き方になっていますよね。プランを描くことは二の次で、年齢だけが強調されています。だから「とりあえず凍結しておこう」という人が増えているようですね。

■市山:そこは問題ですよね。妊孕性が十分で、35歳までに赤ちゃんを産むプランを描いているならば、若年時に卵子凍結するより、必要時に保険適用で不妊治療を受けるほうがよい場合も多いです。将来のライフプランをイメージしたうえで、現在の妊孕性と照らし合わせて適切な選択をすることが大事だと思いますね。また、卵子凍結に社会の注目が集まったことで、不妊治療業界全体の妊孕性教育に対する意識が高まったという点は、非常に意味があると思っています。

■河合:卵子凍結の最大のメリットはキャンペーン効果ですよね。みんながドキッとして、「凍結しておかなきゃいけないのかな」と思ってしまう。そして従来のオーソドックスな生殖行動を思い出させてくれる。

■市山:まさにそれも核心だと思います。だから東京都が卵子凍結の費用を助成すると声を上げたことは、卵子凍結自体はもちろん、女性が妊孕性やライフプランを考えるきっかけになったという点において大きな意味があると思います。

■河合:東京都が説明会を行ってスタンダードな情報を提供し、参加した人だけに助成をするというシステム。これは素晴らしいと思います。

■市山:僕もそう思います。

■河合:40代以上の人たちが、振り返って「あのとき卵子凍結しておけば」「もう1人産めたのに」と思う気持ちは理解できます。だから「凍結したほうがいいよ」と後輩たちに言いたくなるけれど、自然に妊娠できるチャンスがある35歳くらいまで待ってもいいということですね。

■市山:そうですね。一方で、35歳を過ぎて「現在相手はいないけれど、将来赤ちゃんは欲しい」という人は、卵子凍結をするのも1つ。出会って間もないパートナーに急に赤ちゃんの話をすると相手も身構えてしまいますし、適切な個数を凍結しておくことで気持ちに余裕を持ってお話できる場合もあるかと思います。

■河合:そこで悩む女性も多いですよね。女性には時間が限られていることを理解して欲しいと思うけれど、医療の助けを借りる妊娠に抵抗を持つ男性も多いですし。パートナーの女性から「私、凍結した卵を持っているのよ」と言われたら、男性はどう感じるのでしょうか。

■市山:抵抗感を覚えるかたはいらっしゃるでしょう。でも、それは正しい知識がないから納得感が醸成されていないのだと思います。凍結した卵子の話をするだけでなく、2人で不妊治療クリニックに相談に行くなど、妊孕性について一緒に学べる環境をつくることが重要です。

【Check!】東京都が卵子凍結への助成をスタート

2023年9月、東京都が都内在住の18〜39歳の女性を対象に「卵子凍結に係る費用」への助成を開始することを発表しました。助成額は卵子凍結を実施した年度は上限20万円、次年度以降は1年ごと一律2万円(最大5年間)を予定。また、「凍結卵子を使用した生殖補助医療」への助成も同時にスタート。妻の年齢が43歳未満の夫婦が凍結卵子を使用して不妊治療を受ける場合、1回につき上限25万円(最大6回まで)が助成されます。

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