他人のお金や私物を「これくらいいいじゃん」と平気で盗む人ってたまにいますよね。金額にかかわらず、盗むというその行為そのものが犯罪であることを理解していないのでしょうか。今回は親しい人に窃盗を働かれていた経験のある筆者の知人、Hさんから聞いたお話です。
デスクに置いた貯金箱
Hさんは当時OL5年目。職場は小さな会社でしたがアットホームな雰囲気で、同僚や先輩後輩とも仲が良く、楽しく働いていました。
あるHさんは会社近くのお店のオープン記念で小さな貯金箱を貰い、たまたまそれが好きなキャラクターの描かれたものだったため、デスクに置いておくことにしました。
最初は財布の小銭が増えて重たくなるのを防ぐため、おつりなどで小銭が出るたびにその貯金箱に入れていたのですが、たまに切手や乳酸菌飲料など小さな買い物をするときに両替を頼まれて、蓋を開けることもありました。
「あれ、なんか減ってる?」
ある日Hさんは同僚に両替を頼まれて貯金箱を持ち上げると、妙に軽いことに気づきました。その前日にまた財布の中の小銭をじゃらじゃらと入れたはずなのに、重さが全く違うのです。
「そういやその貯金箱、全然いっぱいにならないですよね。そんな小さいのに」
隣りの席の後輩が不思議そうに言いました。
「うん、まさか誰かに盗られてたりして」
「いやいや、それはないでしょ。小銭しか入ってないもん」
Hさんはそう言って後輩と笑い合いましたが、やはり小銭とはいえお金はお金です。誰かに盗られているのか気になって仕方がありません。
隠れて見張っていると……
ある日の昼休み。Hさんは皆がお昼を食べに出かけ、部屋に誰もいなくなったのを確認してこっそり机の陰に隠れて見張ってみることにしました。
「あ、誰か来た……」
誰かの足音が、Hさんのデスクに近づいてきます。コツコツとヒールの音がするところから、女性であることは間違いありません。
「ふぅー、疲れた」
その誰かはひとりごとを言いながら、Hさんのデスクの前に立ち止まります。そして間もなく、貯金箱を持ち上げるジャラっという音がしました。
「なんだ、こんだけしか入ってないじゃん」
その人物は貯金箱を開けてHさんの机の上に小銭を広げ、小銭を吟味しているようでした。
「ジュース買お」
小銭を数枚抜いて残りを貯金箱に戻し、その人物は部屋の隅にある自動販売機に向かって歩き出しました。
Hさんはそっとデスクから顔を出し、その人物の後ろ姿を確認します。それはなんと、貯金箱について話していた隣りの席の後輩でした。
「どうしよう……」
Hさんは後輩に注意するかどうか悩みましたが、目につくところに貯金箱を置いていた自分も悪いと思い、貯金箱を撤去するだけで済ませました。
のちにその後輩は女子ロッカーで、鍵をかけ忘れた人のロッカーからお金とブランド物の財布を盗んだのがバレてクビになってしまいました。
Hさんは「小銭を盗んで味をしめて、人のロッカーまで漁るようになってしまったのかもしれない。自分が早めに注意すれば良かった」とかなり悔やんだそうです。
盗み癖がエスカレートする前に止めておけば、とも思いますが、そもそも小銭を盗んだことも窃盗にあたります。何か理由があったのかもしれませんが、やっていいことと悪いことの区別ができなくなっていたのかもしれませんね。
※窃盗・詐欺は犯罪行為です
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子