●生まれながらの要因がチックに関与
「昔は、『親の躾けー』などといった親子関係や対人関係による心理的疾患と考えられてきました。しかし、それは誤りです。こう話すのは、日本トゥット協会理事で、神奈川県立こども医療センター・児童思春期精神科の部長を務める新井卓医師だ。
「研究が進んだ今は、脳機能上の問題や生まれながらの素因が関係することがわかっています。子どもを取り巻く環境や保護者による子どもへの関わり方が、発症の誘因になったり、悪化する場合はあります。しかし、直接的な原因ではありません」(新井医師 以下同)
チックが軽症の場合、医療機関を受診しないケースもあるため、正確な発症率は把握できていない。だが、トゥレット協会のデータによれば、10~20%の子どもがチックの症状を示すと推定され、ひとクラスに2~3人はチックの子どもがいる計算になる。多くの子どもが3~10歳の間に発症し、成長するにしたがって落ち着く。
なかには、思春期に症状が悪化することも珍しくない。たとえば、「15歳で突然発症した」と思われる男の子も、あらためて振り返ると、軽いチックが幼い頃から出ていた、と判明するケースも多い。症状がごく軽いために、当時は気に留めていなかったに過ぎない。新井医師が続ける。
「ストレスはチック症状を悪化させる誘因になり得ます。受験勉強に挑戦する思春期の子どもに、症状が再燃することは珍しい話ではありません。とくに、小・中学受験にそうしたケースが見られます」
高校受験と違い、挑戦する子もそうでない子もいる。受験する子が、「なぜ、自分だけが我慢しなくてはいけないのか」と、受験しない子と比較してストレスをためることもあり得えるのだという。
●チックの特徴を整理しよう
次は、チックの症状を整理してみよう。
【一過性チックと慢性チック】
・一過性チック→数日から数週間のあいだ、一時的に症状が現れる
・慢性チック→2カ月以上続く
【運動性チックと音声チック】
・運動性チック→目をパチパチさせる「瞬目(しゅんもく)」や、首を振るなどの仕草
・音声チック→せきや、「あっ、あっ」という短音の発声を伴う、汚言など
【単純性チックと複雑性チック】
・単純性チック→「瞬目」や首を振る仕草、「うぅ」といった短い声をあげる
・複雑性チック→その動作を行ってはいけない場所で行動に移してしまうなど、あたかも意識的に行っているように見える動作や言葉の発声による症状。本人の自覚はあるが制御が難しい
例:「女性の前で行儀の悪い言葉や動作に及ぶ」「試験や授業中に声をあげる」
【チックとトゥレット症候群】
・チック→3~10歳の子どものうち10~20%の確率で発症
・トゥレット症候→群複数の運動性チックと音声チックの症状に加えて、2カ月以上慢性的に続く場合は同症候群と診断。小学校低学年の子どもの場合、1000人に3~8人の割合で発症すると言われる
上記以外にもチックの症状は複雑で多岐に渡る。そのため家族も気づかないことや周囲に誤解を招いてしまうケースもある。
「チックは、ごく短時間であれば意識的に症状をとめることもできます。しかし、継続的に抑えることはできません」
ひとクラスに2~3人の割合で発症するチックは、珍しい症状ではない。まずは、チックについての知識が広く共有され、理解が深まることが何より大切だ。
(取材・文/永井貴子)