園生活や小学校生活が始まり、日々わが子の性格や行動に向き合う中で、「ささいなことなのに、反応が大げさすぎるのでは…?」あるいは「痛みなどの刺激に鈍すぎるのでは…?」と感じたことはありませんか?
日常生活の中で、たいていの人なら無視できるような状況や刺激を無視できなかったり、過剰に反応したりする「感覚過敏」と、光や音など特定の刺激に対する反応が鈍い「感覚鈍麻」。その背景には発達障がいがある可能性も。
「感覚過敏」や「感覚鈍麻」の可能性がある子どもたちの、小学校入学時の注意点について、特別支援教育学が専門の摂南大学全学教育機構准教授、松浦正典先生にアドバイスをうかがいました。
「わが子に感覚過敏や感覚鈍麻の可能性を感じたら?【前編】それぞれの特徴と、上手に向き合うコツとは」はこちら。
通常学級か支援学級か…小学校入学の壁はどう乗り越える?
客観的視点で子どもが一番輝ける場所を選んで
わが子が感覚過敏や感覚鈍麻である可能性が高いと感じた場合、気になるのが小学校入学時。通常学級と特別支援学級の選択など、わが子にとってベストな場所を選ぶにはどのように考えると良いのでしょうか。
「やはり子どもが楽しいと感じる、一番輝ける場所を選んであげてほしいと思います。ただ、感覚が過敏だからといって特別支援学級や通級指導教室の選択を考える必要はないと思います。過敏の状況があまりにも深刻だったり、発達障がいを疑い始めたり、発達に関して他に心配なことがあると、保護者の皆さんの頭には特別支援学級選択がよぎるかもしれませんね」と松浦先生。
「障がいのある子の保護者の一部からは、通常学級の子どもたちの中にいれば刺激があるから良いという声も聞きますが、感覚過敏の特徴を見ていただければ分かる通り、刺激が多ければ良いというものではありません。やはり本人にとって“適度”であることが大切です」。
「わが子が輝ける場所」を見出す必要があるからこそ、保護者にはわが子をある程度の知識をもって、客観的に見る力が必要だと松浦先生は力を込めます。
「発達外来や小児科、行政が行っている発達相談などに相談するのも良いですね。就学前でも受け付けてくれるところはたくさんあります。小学校入学前には就学時健康診断や学校説明会に参加すると個別相談を受け付けてくれる機会があると思います。そういうチャンスを上手に活用して客観的な視点を得ることが大事です」。
情報収集なら“親の会”を頼るのも一つの手
「情報収集という点では、各市町村に障がいを持っている子たちの“親の会”というのがあるので、そこと上手につながって、先人たちの情報を得るのも良いと私は思っています」と松浦先生。
「この小児科の先生は専門的なことをよく知っているとか、こういう内容はここに相談すると良いとか、経験者がたくさんいるので、思い切ってつながると、とても良いリソースになるのではないかと思います」。
まず学区の学校に相談する
最近では2022年に国連が日本に対して、障がいのある子どもとない子どもを分離する教育をやめるように勧告し、全ての子どもが共に学ぶ「インクルーシブ教育」を進める必要があると指摘したことがニュースで話題になっています。
国内でもインクルーシブ教育に力を入れる学校はありますが、それを前面に押し出している学校はほんのわずかです。そもそも小学校の業務は膨大にあるため、校長先生の方針によって学校の特色が変わります。でも、だからといっていきなり学校に合わせて引っ越したり、送迎を前提に遠方の学校を探したりするのは早計だと松浦先生は話します。
「改正障害者差別解消法が法的義務化され、どんな学校でも “合理的配慮” を行わなくてはならなくなりました。これは保護者の希望と学校のできることをすり合わせて、実現できるラインを探ることをいいます。例えばわが子に合わせてエレベーターをつけてくださいとか、先生を1人付けてください、というような無理な要望ではなくて、学校が無理なく対応できる方法を保護者と話し合うんですね」。
「学区内の学校に通えるならそれが一番幸せじゃないですか」と松浦先生。
「幼稚園からの顔馴染みがいたり、通学に無理がなかったりと、地元の学校にはメリットもたくさんあります。相談してみてやはり合理的配慮も合わないと感じたら別の学校を考えてみるのも選択肢の一つですが、まずは学区の学校に直接相談してみることをお勧めします」。
感覚過敏や感覚鈍麻は性格や好みとの見極めが難しいからこそ、大人が先入観からラベリングせずに丁寧に子どもと向き合うのが大切であると松浦先生。少しでも迷ったら、臆することなく相談する行動力も必要だと話してくれました。
PROFILE●
松浦正典(まつうら・まさのり)さん
特別支援教育学専門の摂南大学全学教育機構准教授。長年養護学校の教諭や小学校の教諭を務め、2020年から2年間校長を務めた千葉県野田市立宮崎小学校ではSDGs「だれ一人取り残さない学校・学級を」を学校経営方針に、現実的なインクルーシブ教育を実現させる授業のユニバーサルデザインを実践。発達障がいのある児童に関する論文や特別支援教育の現場を伝える著書も複数発表している。
取材・文/山田朋子
配信: あんふぁんWeb