今や、”狩りゲー”としてのジャンルを確立した「モンスターハンター」。大剣やハンマー、ボウガンなどのさまざまな武器を駆使し、仲間と協力してモンスターを狩猟するというコンセプトが人気のゲームシリーズだ。
このシリーズの第1作目が発売されたのは2004年3月。2024年で20周年を迎え、全世界で累計販売本数1億本を突破した本作はゲームとしての進化はもちろんのこと、テーマパークや地方自治体とのコラボ、位置情報を利用したゲームアプリの配信など、さまざまな形での展開がされている。
今回はモンスターハンターシリーズプロデューサーの辻本良三さんに、ゲームの企画・開発のきっかけやゲームシステムの進化、そしてシリーズ全体の今後の展望についてお話を聞いた。
■今年で20周年!「モンハン」の誕生のきっかけは?
――モンスターハンターシリーズは2024年で誕生20周年を迎えますが、そもそもどのようなきっかけで誕生したゲームなのでしょうか?
【辻本良三】モンスターハンターは2004年3月に1作目が発売されたのですが、企画が立ち上がったのはおそらく2000年くらいですね。私はその頃にはアーケードゲームを制作する部署にいたのですが、「将来を見据えてコンシューマーゲームを作らないといけないよね」ということになり、家庭用ゲーム機でのオンラインゲームにチャレンジすることになりました。
そのときに出ていた企画が、レースゲームとバイオハザードのオンラインゲーム、そしてモンスターハンターの3本でした。モンスターハンターに関しては、弊社が得意としているアクションゲームのマルチプレイにチャレンジしようという方針でしたが、当時は今ほどオンラインの環境もよくなかったので、先述のゲーム開発でのノウハウを蓄積したうえで、モンスターハンターをリリースするという形になりました。
――1作目である「モンスターハンター」は新たなジャンルを確立したゲームでしたが、どのような点にこだわって開発されましたか?
【辻本良三】大きな武器を持って大きなモンスターに立ち向かおうみたいなコンセプトが念頭にありましたね。また、はっきりと善悪をつけるのではなく、登場人物みんなが生きるために活動しているという世界観にしたかったので、「狩り」というテーマを採用しました。
狩りという単語はインパクトがあってフレーズにも使いやすかったので、プロモーションでも積極的に採用していきました。1作目の際は「ハンティングアクション」としていましたが、いつの間にか「狩りゲー」と呼ばれるようになりました。
――1作目は口コミでだんだんと広がっていったと聞きますが、発売当初の反響などはいかがでしたでしょうか?
【辻本良三】1作目はちょっとクセのあるゲームだったことは確かでした。攻撃はボタンじゃなくてアナログスティックで行うなど、独特の操作性も拍車をかけていましたね。それでも「おもしろい!」と遊んでくれる方が多くいらっしゃいました。また、当時はネット環境が今ほどよくなかったなか、「オンラインで一緒にやろうよ」という人が増えて口コミで人気が広まりました。
とは言いつつも、やはりオンライン環境を作ることは非常に難易度が高かったですね。今みたいにWi-Fi環境なんかなかったですし、ケーブルをテレビのある部屋に引っ張ってこなければいけなかったですからね。オンラインネットワークのハードルの高さをクリアすることにとても苦労していました。
その後、プレイステーションポータブルで作品を発売し、機器を持ち寄ればマルチプレイができる環境ができました。これがものすごく大きかったですね。僕たちの子どもの頃はゲームセンターや友達の家に集まってゲームをしたりしていましたが、だんだんそのような機会が少なくなっていました。そんななか、ポータブルシリーズでは集まったらみんなで協力プレイができ、コミュニケーションを生みだすことができました。
――簡単にマルチプレイができるようになったのは革新的でしたね。
【辻本良三】そうですね。そのうちにネット環境が発展してWi-Fiが普及し、ネットワーク接続に関してのハードルが一気に下がりましたね。また、当時はテキストチャットだけのコミュニケーションでしたが、最近ではボイスチャットもできるようになってきたので、プレイ中のコミュニーケーションの形は今後もどんどん変わってくると思いますね。
ちなみに、私も時々オンラインに入ってプレイヤーの方たちと一緒に狩りに行ったりしていますね。「Ryozo」という名前で野良の中に混じっているので、もしかしたら一緒にプレイしたことがある方もいらっしゃるかもしれません(笑)。得意な武器はハンマーです。
■作品ごとに発展し続けるモンハン。最新作ではどう進化した?
――1作目の武器種は5つでしたが、現在では14種類まで増えていますよね。武器はどのような形で増えていったのでしょうか?
【辻本良三】今ある武器と遊びが被らないことを重要視して、新しい武器種の開発を行っていましたね。最新作ではバリエーションとしてはそろってきているので、これまでの武器とは遊びが異なって、違った形で楽しんでもらえるアイデアが出てこない限り、新しい武器種の開発は正直やりづらいところではありますね。だからこそ、最近では新しいアクションを積極的に取り入れています。
作品を重ねるごとに、タイトルのテーマ性によって新しいアクションを入れるという取り組みをしています。最新作の「モンスターハンターライズ:サンブレイク」では、「翔蟲」を使い、空中移動や標的に向け素早く移動できる疾翔け、武器固有の技を繰り出す鉄蟲糸技、ダメージを受けたときに体勢を立て直す翔蟲受け身など、さまざまなアクションができるようになっています。
最新作ではフィールドに高低差があり、そこに対して軽快にアプローチできることがテーマでもあったので、翔蟲を使って壁を登ったり飛び越えたりできるようなシステムを入れていき、立体的な遊びを楽しんでもらうことが目的でした。
――スピーディな動きができる翔蟲はとても斬新でした。
【辻本良三】あとは、投げつければモンスターの位置がマップに表示される「ペイントボール」というアイテムがあったのですが、今作ではなくなっています。これまではどこにモンスターがいるかを探すことが醍醐味のひとつではありました。一方で、モンスターハンターライズには環境生物がおり、それらを途中で確保してパワーアップができるので、モンスターに遭遇するまでの道のりを自分で選べるような仕様にしています。
――だからこそ、初めからモンスターの位置がわかるようになっているのですね。
【辻本良三】そうなんです。人によってはバフの必要のない人もいますし、体力やスタミナを上げてから狩りたい人もいます。それぞれの選択肢を大事にすることがテーマのひとつとしているので、なくしたという感じですね。ただただ便利で快適にしたいから採用しなかったのではなく、ゲームのテーマに沿って必要かどうかを吟味した結果です。
――モンスターハンターシリーズは初代からさまざまな進化をしていますが、一番大きく躍進したと思われるのは、どのようなシステムでしょうか?
【辻本良三】「モンスターハンター:ワールド」はとても大きく進化をした作品だと思っています。ハードの性能が飛躍的に伸び、できることが大きく増えましたね。なかでも一番の進化はステージがシームレスになったことですね。これまではステージが切り替わるたびにロードが入っていましたが、それがシームレスになってストレスなく遊べるようになりました。また、ステージの高低差を実現できたのもこの作品からです。
また、細かい進化としては攻撃したときのダメージの数値が出るようになったことですね。テストプレイの段階で海外のプレイヤーの方から、「自分の攻撃が成功したのか失敗したのかがわかりにくい」ということをよく言われていました。これまでの作品ではダメージのエフェクトが出るだけで、モンスターの体力が落ちたら足を引きずるとかのモーションもありましたが、直感的に伝わりにくかったんですよね。
そこで、ダメージの数字を取り入れてみたらプレイヤーからの反応がすごくよかったんです。狙う場所によるダメージの大小が把握できたり、落石や流水などの環境利用のダメージの大きさが視覚的にわかるようなったりして、多くの好評の声をいただきました。このシステムについては本当に採用してよかったなと思いますし、モンスターハンターをより体感してもらうためにすごく効果的だったと思います。
――確かに、攻撃して数値が大きかったときにはすごくやりがいを感じました。
【辻本良三】視覚的にすごくわかりやすいですよね。この20年間で多くのタイトルを出していますが、作品ごとに設定したテーマにチャレンジしてきましたし、そのすべてにおいて達成できたという実感がありますね。今後、どのような挑戦をしていくかもぜひ楽しみにしていただければうれしいです。
■「もっとたくさんの人にプレイしてもらいたい!」シリーズの今後の展開
――2024年5月にはシリーズ累計販売本数1億本を突破しましたが、今後は日本だけでなく海外へも積極的に展開されていくのでしょうか?
【辻本良三】実は、すでに「モンスターハンター:ワールド」を皮切りに、海外の方のプレイもすごく増えています。「ワールド」を発売するタイミングでグローバル展開を意識し、海外のゲームイベントにも積極的に参加するようになっています。そして、2023年末に発表した次回作「モンスターハンターワイルズ」の発表も海外で行いました。
――貴社の海外市場は「バイオハザード」がメインで、国内市場が「モンスターハンター」という感覚がありましたが、変わってきているのですね。
【辻本良三】皆さんそのようなイメージをお持ちですが、今では海外のプレイヤーも徐々に増えている状況です。時間帯にもよりますが、オンラインで海外のユーザーと協力プレイも盛んに行われています。また、チャットの定型文も翻訳されて出力されるので、コミュニケーションも円滑に行うことができます。これも「狩り」という共通の目的があるからこそできることになりますね。
――次回作「ワイルズ」での海外展開がさらに楽しみですね。
そうですね。今以上にさらに海外市場に参入していきたいと思っています。
――今後の展望として、モンスターハンターシリーズで力を入れていきたいことはありますか?
【辻本良三】新作の開発はもちろんですが、現在はゲーム以外の展開にも力を入れています。たとえば、ユニバーサルスタジオジャパン様でのアトラクションやグッズなどのコラボレーションですね。モンスターハンターそのものに触れてもらう機会を増やしていきたいですし、その規模を大きくしていくためのさまざまな施策を行っていますね。
最近ではJR東海様とコラボして「豊橋へ 一狩りいこうぜ!」という企画を行っています。モンスターを役所や駅などに設置したり、ブラックサンダーをはじめとした豊橋の商品とコラボしたりしています。また、豊橋市は手筒花火が有名なので、アイルーが手筒花火を抱えている像を豊橋駅に設置するといったことをしています。
ほかにも、「モンスターハンターNow」という位置情報を利用したゲームを配信したりなど、いろいろな遊びや楽しみを提案しています。おでかけの際はぜひプレイしてみてください!
――ゲームの枠を超えて活躍するコンテンツにまで成長しているのは、すごく大きなことですね。
【辻本良三】そうですね。20年の間で多くのタイトルを出し、さまざまなことに挑戦してきました。その理由としては、やっぱりユーザーの皆様に忘れられたくないという想いがあったからでした。だからこそ本編やRPGの「モンスターハンターストーリーズ」の発売をはじめ、常にモンスターハンターの話題が身近にあるようにしています。もっともっと、シリーズをたくさんの方に知ってもらい、体験してもらいたいですね。
――ありがとうございます。今後のシリーズの展開について教えてください。
【辻本良三】国内外を問わず、まだまだモンスターハンターをプレイしていない方は多いです。そのような方たちに向けてしっかりシリーズを提供できる環境を作っていきたいですし、コンテンツを広げていきたいと思っています。新作を開発する際は、必ず初めてプレイする方を意識して作っていますので、どの作品を買っても「おもしろい!」と感じてもらえるようなゲームを今後も作り続けていきたいです。
――最後に、2024年6月14日に発売の「モンスターハンター ストーリーズ」(リマスター版)、「モンスターハンターストーリーズ2 ~破滅の翼~」(ハードにPS4版を追加)について、一言お聞かせいただけますでしょうか?
【辻本良三】モンスターハンター ストーリーズのシリーズは完全にRPGなので、アクションが苦手な方でも楽しく遊べるタイトルになっています。モンスターと一緒に旅ができるという、モンスターにスポットライトを当てたゲームになっていますので、本編をプレイしてきた方はもちろん、これまでモンスターハンターをプレイしたことがない方でもモンハンの世界観を楽しむことができるので、とてもおすすめの作品です。
また、1作目の「ストーリーズ」については、以前発売したものはボイスがモンハン語という独自の言語だったのですが、今回は日本語のボイスも入っていますので、前回プレイされた方でも新たに楽しめる仕様になっています。過去に遊んだ方も、初めての方も、ぜひ手に取ってプレイしてみてください!
取材・文=福井求(にげば企画)
配信: Walkerplus
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