妻のことを心から愛しているのに、できない。セックスレスの男が抱える“誰にも言えない秘密”とは?【作者に聞く】

妻のことを心から愛しているのに、できない。セックスレスの男が抱える“誰にも言えない秘密”とは?【作者に聞く】

メンズエステとは、マッサージを中心とした施術で心身の癒やしを提供する男性向けのお店のこと。「メンエス嬢加恋・職業は恋愛です」は、そんなメンズエステを舞台にした創作漫画。美しくもミステリアスな主人公の加恋が、店にやって来た“訳アリ”な客の心を解きほぐす様を、蒼乃シュウさん(@pinokodoaonoshu)が丁寧に描く。

今回は、「セックスレスの男」。我妻一生は妻を心から愛しているが、とある秘密から抱けずセックスレスに陥っていた。ある日偶然通りかかったメンズエステの看板になんとなくひかれ、加恋の施術を受ける。

■セックスレスがテーマの漫画を描いてみたかった
今回店を訪れた我妻は、「靴を履いた女性の脚にのみ興奮する」という性癖を誰にも打ち明けられず、それが原因で妻とはセックスレスに。蒼乃シュウさんに、セックスレスを描こうと思ったきっかけについて聞いてみた。

「最初に『脚フェチの男』を描こうと思ったのですが、それだけだとあまり共感を得られないだろうなと。そこで、『妻のことを本当に愛しているからこそ、セックスレスに陥ってしまう男』という設定にしました。セックスレスは、漫画やドラマでも夫婦の悩みとしてよく扱われています。なので共感しやすいと思いましたし、私自身このテーマで描いてみたいと前々から思っていたんです」

■心理学系の書籍やネット記事から想像を膨らませて漫画に
一見幸せそうな夫婦やカップルも、実は何かしらの問題を抱えている…というケースは、現実にも多いように感じる。内に抱えた悩みを描くことはとても難しいように感じるが、漫画にする際は自身の経験をベースにするのだろうか。それとも身近な人の話などを参考にするのだろうか。

「心理学系の書籍を読むのが好きで、週に1回は必ず書店や図書館で情報収集しています。日々流れてくるネット記事の中でも興味のあるものを見つけると、それについてさらに調べたり掘り下げたり。最終的には『自分がこの立場だったらどうするだろう?』と自分なりに答えを出して、作品に落とし込んでいます。恋愛の悩みは、なかなか本音を友人知人に伝えることは難しいかと思いますので、取材をするよりも自分で想像したり膨らましたりする方が描きやすいです」

■嫌いになったから別れるのではなく、愛しているからこその別れ
本当のことを言えば、妻に嫌われてしまいそうで怖いと語る我妻。珍しい性癖を持っていると、このような不安が常につきまとうのかもしれないと感じたが、蒼乃シュウさんに今回の漫画のテーマについて聞いてみた。

「特殊な性癖を持っていても、決して異常ではないと思います。それが犯罪に繋がる場合はもちろん異常だし病気ですが、うまく趣味や仕事につなげることができれば、個性のひとつになるのでは?ということを描きたかったんです。あとは、『嫌いになったから別れる』ではなく、『愛しているからこそ別れを選ぶ』カップルの話も描きたいと思いました」

■離婚という結末は最初から考えていた
加恋から勇気をもらい、ついに自身の性癖や気持ちを妻に打ち明けることに。何時間も話し合った末に2人は「離婚」という結論を選ぶが、この展開に迷いはあったのだろうか。

「離婚という結末は最初から考えていました。しかし読者は、めでたくセックスレスを解消して離婚回避…というラストを期待するのでは?と思うと、がっかりさせてしまうかも…という不安がありました。それにこの夫婦は、相手のことを愛しているのでなおさらです。好きだけど別れるなんてとてもつらい決断ですが、『自分らしさを大切にする』という点を第一に考えて、あえて離婚させました」

2人が自分らしく生きていくために別れは必要だったと感じるが、蒼乃シュウさんの考える幸せはどのようなものか聞いてみた。

「一般的に愛とは自分よりも相手を大切にすることですが、だけどそれだと必ずどちらかが我慢をしなければいけません。夫婦として共に生きていくためには相手の気持ちを優先したり、歩み寄ったりすることも大事だとは思いますが、この漫画のテーマは『セルフラブ』なので…。相手に無理をさせたり、自分を偽ったりするのではなく、自分は自分らしく、相手も相手らしく、それぞれが自分の幸せを優先することは可能だと信じています」

漫画の主人公であるメンエス嬢の加恋は、肌に触れるだけで相手の心がわかる女性。美しいだけでなくその言葉にも力があり、多くの客に「自分を好きになるためのきっかけ」を与えていく。そんな加恋のセリフを考えるうえで、意識していることを教えてくれた。

「『絶対に説教はしない』と、心がけています。結構辛辣なことは言うのですが(笑)。問題をズバリと指摘するのではなく、どういう言葉をかけてあげればこの人は癒やされて自分を好きになることができるだろうか?と考えています」

離婚したあと、ストッキングを開発する会社に転職し、脚フェチ仲間たちと仕事に打ち込む我妻。自分の性癖を隠していたときとは見違えるほど楽しそうな表情は、自分らしく生きている証拠だろう。次回は加恋のもとに、どんな訳あり客がやって来るのだろうか。今後も楽しみにしてほしい。

取材・文=石川知京

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