白黒模様のかわいい見た目とは裏腹に、“海の王者”とも称されるシャチ。海の食物連鎖の頂点に立ち、日本では北海道沖などで野生の個体が見られるが、水族館で見られるのは全国で3カ所だけだ。今回はそのうちのひとつ「名古屋港水族館」(愛知県名古屋市)で、シャチの担当トレーナーにシャチの生態などについて話を聞いた。
■シャチってどんな生き物?なぜ白黒模様?
話を聞かせてくれたのは、名古屋港水族館でシャチを担当するトレーナー・宮嶋桃子さん。そもそもシャチとは、どんな生き物なのだろうか。
「シャチは世界中の海に広く生息する哺乳類です。体長はオスが6~8メートル、メスが5~6.5メートルくらい。白黒の体の色と、目の後ろにある白いアイパッチが特徴です」(宮嶋さん、以下発言部分はすべて)
シャチの体は背中側が黒色、腹側が白色になっている。これは「カウンターシェーディング」といい、水の中でカモフラージュをする役割があるそうだ。水中から海底を見下ろすと黒っぽく見えるのに対し、水中から水面を見上げると日光で白っぽく見える。これを利用した白黒模様で、敵や獲物に存在がバレないようカモフラージュしているそうだ。
もうひとつ、模様で特徴的なのがアイパッチ。よくアイパッチのところに目があると間違われてしまうが、目はアイパッチの前方にある。
「アイパッチは個体によって違うので、飼育しているシャチを見分ける際にも使えます。とはいえ、名古屋港水族館のシャチ2頭はだいぶ大きさが違うので、すぐわかるんですけどね」
名古屋港水族館で飼育されているシャチは、オスの「アース」と、メスの「リン」の2頭。体長はアースが約6メートル、リンが約5メートルなので見分けやすい。また、オスとメスの見分け方は背ビレ。オスは二等辺三角形、メスはカマ形になっているほか、オスの背ビレの方が大きい。
■シャチは頭がいいって本当?
シャチは社会性が高く、非常に賢いと言われる生き物。取材に訪れた際、ちょうどオスのアースが認知研究の課題に取り組んでいるところだった。その内容は、画面に表示された2つの選択肢から、ルールに従ってどちらかひとつを選択するといったもの。12回出題される問に、どう答えたのかをデータとして取っている。
「アースは素直で真面目な性格で、課題にもコツコツと取り組みます。失敗すると“間違えちゃった…”というように、くやしそうなリアクションを取る姿がかわいいんですよ」
また、宮嶋さんは、過去にバンドウイルカなどのトレーナーを経験したこともあるそうで、イルカとシャチの違いを「先読みする力」だと話した。
「シャチは何か新しいことを覚えるとき、ひとつ目の単純なことを教えたあと、それを応用した次のステップへの進み方が早いように感じています。“こう来たなら、次はこうでしょ?”というように、先回りして考える能力が高いと思います」
では、自然界のシャチはどうだろう。シャチは普段、母系の群れを作って生活している。その数は3頭~50頭と大小さまざま。魚やほかの哺乳類を食べており、ときには群れで協力して、自分たちよりも大きなクジラを狩ることもあるそう。
仲間と協力するには、コミュニケーションが必要だ。シャチはおもに鳴き声でコミュニケーションを取る。音は、空気中よりも水中のほうが速く遠くまで届くため、シャチたちは離れた場所にいても互いに意思疎通を行い、狩りをすることができる。
「シャチは群れによって鳴き方が異なると言われています。人間で言うところの、方言みたいなものですね。その群れにだけ通じる言葉で、仲間同士のコミュニケーションを取るようです」
■シャチに天敵はいるの?
水族館では優雅に泳ぐかわいらしい姿が魅力だが、自然界ではその獰猛な姿から多くの生き物に恐れられているシャチ。海の食物連鎖の頂点と前述したが、果たしてシャチに天敵はいるのだろうか?
「海にはシャチの敵になるような生き物はいません。強いて言えば、天敵は人間なのかもしれませんね」
人間が海へ排出する有害物質による海洋汚染や、エサとなる魚や哺乳類の減少などがシャチの脅威となり、約100年後にシャチの数はかなり減ってしまうだろうという予測もある。今こうして水族館でシャチが見られるのも、貴重なことなのだ。
■大迫力!シャチの公開トレーニングの目的は…?
名古屋港水族館で人気を博すイベント「シャチ公開トレーニング」。1日2回(土曜・日曜・祝日や夏休みなどは変更あり、天候により中止の場合あり)、北館3階スタジアムにて行われており、多くの人が足を運ぶ。
2頭のシャチが水面近くを泳いで波を起こしたり、尾ビレをパタパタさせて水しぶきを上げたり、勢いよくジャンプを繰り出したり、と迫力満点。プール近くの席に座るなら、水濡れは覚悟しておこう。また、モニターに映像が映し出されたり、トレーナーによる解説があったりと、シャチの生態についても勉強できる。
「公開トレーニングでは、野生で暮らしているシャチが実際に行う動きを中心に紹介しています。たとえば尾ビレで魚をはたいて気絶させる動きだとか、体を水面に打ち付けるブリーチングという動きとか。“ショー”ではなく、あくまで健康管理の一環として行っている動きをお客様に見ていただいています」
名古屋港水族館では、シャチたちの体温測定を毎日、また定期的に採血・採便などの検査や体長・体重の測定を行っており、これらにはシャチたちの協力が欠かせない。迫力あるさまざまな動きは、普段のトレーニングの中でシャチとトレーナーが信頼関係を築きながら練習しているからこそ見られる瞬間だという。
■名古屋港水族館のシャチに会いに行こう!
名古屋港水族館は、入口を入ってすぐ右側に大きなシャチの水槽がある。そこでは、真面目な性格のアースと、天真爛漫なリンが出迎えてくれる。
「名古屋港水族館のシャチの水槽は、水中窓の大きさが自慢です。プールで水上に姿を現すときだけではなく、シャチたちが水の中でどんな動きをしているのか、どういう体の使い方をしているのかもぜひ見ていただきたいです」
全国3つの水族館でしか見られないシャチに、ぜひ会いに行ってほしい。名古屋港水族館ではシャチのアースとリンをはじめ、イルカやウミガメなど500種類を超える世界中の海の生き物たちが待っている。屋内が中心なので比較的涼しく、夏のおでかけにもおすすめだ。
取材・文=民田瑞歩/撮影=古川寛二
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配信: Walkerplus
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