働き方改革が進んだとはいえ、いまだに深夜の打ち合わせはあるし、残業は減らない。そんな職業は存在する。22時からクライアントとの打ち合わせ。土日の仕事が確実となり「何のために頑張っているのだろう」と、むなしさと葛藤を抱えた夜を描く――大町テラス(@te_rra_ce)さんの「ご自愛ください」に1.5万のいいねが集まっている。
■笑顔の裏側で「何のために頑張っているのだろう」と、息苦しくなる瞬間がある
広告制作会社で働いて15年。金曜日の22時からの打ち合わせ。タレントを想定したデザイン提案書を「月曜のゴゴイチくらいに一旦もらえれば…」と言われ、笑顔の裏側で固まる。本日の残業だけでなく、土日の稼働も決定した瞬間だった。
土曜日、部下の松島は、友人の結婚式があった。「結婚式が終わってからだったら…」と、彼女は言うが、さすがにそれはと思い、「土曜日に方向性だけ、自分で仕上げるから」と話す。そして、22時から始まった打ち合わせのせいで終電ギリギリになった部下を帰す。
自分が新人だったころ、頑張ってチケットを取った好きなバンドのライブに行けなかった。次に行こうと思っていたら、バンドは解散。そんな記憶だけは色濃く残り、後輩には「そんな思いはしてほしくない」と思う。上司として「休日を返上して働け」とは言いたくない。けれど、自分一人で抱え込むことも美徳とはいえない。答えのない葛藤を繰り返し、モヤモヤしていた。そんな夜を描く。
■後輩に無理をさせないために結局は自分が頑張るしかない。「パワハラを断ち切るために、頑張る美学」
今回は、制作の経緯や伝えたかったことを漫画家の大町テラスさんに聞く。
――本作を描いたきっかけを教えてください。
本作は2021年に「チャンピオンRED」(秋田書店)に描き下ろした読み切り作品です。産後に開始した「ハラがへっては育児はできぬ」(秋田書店)の連載中に「ごはんとサウナの描写を入れて何か読み切りを描きませんか?」と、ご依頼をいただきました。
時期的に2021年はまだまだ世間では「マスクをつけて出歩くのが当然」というムードで、現代劇を描くのであれば「コロナのことを無視できない」と考えていた時期だったので、編集さんのリクエストに応えつつ、コロナ禍の閉塞的なムードの中でそれでも働く主人公の話にしようと思いました。
――どのようなテーマで描いたのでしょうか?
「自分が受けた理不尽をどう還元するのか?」がテーマなのですが、その主題にしっかりと反応してくださっている方が多く、うれしかったです。テーマを具体的に噛み砕いていうと、たとえば「パワハラ上司に受けたパワハラを後輩に同じようにするパワハラ上司になるのか?」もしくは「パワハラは自分の世代で断ち切って優しい先輩になるのか?」みたいなことです。
自分の時代は「徹夜しても頑張る」のが当たり前だったけれど、いざ自分が上司になったときにはそれは許されない。そうなると、後輩に無理をさせないために結局は自分が頑張るしかない。「パワハラを断ち切るために、頑張る美学」を描いていることに気づいてくださっている読者の方が多くいたことに励まされました。一方で、「主人公の行動が過度に自己犠牲的で不快だ」という批判的なコメントもありました。こちらは続編にあたる「私ごとで恐縮ですが」でアンサーを描いていますので、ぜひそちらも読んでいただきたいです。
――1.5万のいいねがついています。感想はいかがでしょうか?
雑誌に発表したときはあまり反応がなかったので「地味な話だしな…」と思っていましたが、Xに載せたことでたくさんの方に届いて、うれしく思っています。
――そのほかにどのような漫画を描いていますか?
サウナに通いつつ、働く女性を主人公にした「お熱いのがお好き?」でデビューしました。2024年4月に「子どもが欲しいかわかりません」という単行本が発売されています。このあとは、2024年8月ごろから新連載が始まる予定ですので、ぜひ私のSNSをフォローしてチェックしてくださるとうれしいです。
取材協力:大町テラス(@te_rra_ce)
配信: Walkerplus