「スト6」発売1周年記念インタビュー!「異種格闘技戦のようなイベントを作りたい」この1年の振り返りと今後の展望を開発陣に聞いた

「スト6」発売1周年記念インタビュー!「異種格闘技戦のようなイベントを作りたい」この1年の振り返りと今後の展望を開発陣に聞いた

格ゲーの金字塔・ストリートファイターシリーズの最新作「ストリートファイター6」(以下、「スト6」)は、2024年6月2日に発売から1周年を迎えた。

新たな操作システムの導入に「ストリートファイターリーグ」(以下、SFリーグ)の盛況ぶり、さらに2024年5月22日には「豪鬼」、6月26日には「ベガ」が追加されるなど、「スト6」の勢いは止まることを知らない。そんな大好評の同作だが、開発チームは今後の展開についてどのように考えているのだろうか。

今回は、株式会社カプコン「スト6」のプロデューサー・松本脩平さん、ディレクター・中山貴之さん、そしてeSports大会企画室・網本圭孝さんに、同作の発売から現在までの振り返りと、今後の見通しについて話を聞いた。

■「ストII」時代のブームを、現代風にリバイバルしていく

――「スト6」は、リリースから1年が経過した今でも大きな注目を集め続け、エンタメ界のムーブメントとなっています。ここまでの盛り上がりは想定どおりでしたか?

【松本脩平】ディレクターの中山が数年前から進行していた「スト6」の企画を見ていて、これが実現すれば“新たなユーザー層”を獲得できるという確信がありました。そんな理想を達成するべく、コミュニケーションやプロモーションなどマーケティングについて考えていました。

「スト6」をリリースして1年が経ちましたが、実際に新規のプレイヤーはたくさん増えましたし、今後のブランド展開の上でもっとも大事と言える、“ストリートファイターシリーズのファン”も増えています。目指していた理想が実現しているという実感もある一方で、まだ伸びしろがあるとも思っています。

――中山さんにとっての「1周年」はいかがでしょうか。

【中山貴之】私は「ストリートファイターII」(以下、ストII)のど真ん中の世代でして、当時のブームをずっと見てきました。「スト6」開発の際には、かつてのブームを現代風にして受け入れてもらうためにどうすればいいか、松本を含めて現場と話し合って制作しました。その結果、今の盛況につながっていると思います。

――具体的に、どの部分を“現代風にリバイバル”したのでしょうか。

【中山貴之】1993年に「ストIIターボ チャンピオンシップ’93 IN 国技館」を開催しており、大規模なオフライン大会を開催するという文化は当時からありました。そして2024年、約30年ぶりに同会場で「CAPCOM CUP 11(イレブン)」と「SFリーグ: ワールドチャンピオンシップ 2024」を開催します。これは当時のブームを現代風にリバイバルしたいという思いから生まれたイベントです。

■対戦の魅力を伝える選択肢として誕生した「SFリーグ」

――「スト6」の“伸びしろ”の部分については後ほどお聞きしますが、まずは、お話にあった「SFリーグ: ワールドチャンピオンシップ 2024」に関連して、SFリーグが始まった経緯から教えてください。

【網本圭孝】ストリートファイターは、2013年より「CAPCOM Pro Tour」および「CAPCOM CUP」という、個人の世界NO.1を決めるeスポーツの大会を開催してきました。個人戦が年々大きな盛り上がりをみせる一方で、新たな大会の魅せ方があるのではないかと検討し、2018年より3人1組でのチーム戦を実施。第1回SFリーグの開催にいたりました。

ただ、第1回SFリーグは現在と異なり、エクストリームクラス、ハイクラス、ビギナークラスの3つのレベルに分け、トップシーンのプロ、アマチュアの中堅層、そしてビギナー層から、それぞれランク帯ごとに1人ずつ選び、合計3人で展開するチーム戦を行っていました。

その後、年々形を変えながら、競技としての側面を強化し、国内最高峰のリーグ戦にしていく方針となりました。そして今では、トップ層の選手が4人1組のチームとなって、数カ月にわたるリーグ戦を行う形式となっています。

――SFリーグを開始するにあたって、ユーザーからはどんな声がありましたか?

【網本圭孝】SFリーグを検討していた2018年の段階では、まだ「チーム戦」を望む声を多くいただくことはありませんでした。ただ、カプコンプロツアーとカプコンカップを行うなかで、視聴してくださる方は年々増えていました。

こうした公式の大会をはじめ、コミュニティ主催の大会での盛り上がりを受け、ストリートファイターの魅力をより多くの方に伝えられるような展開を考えたとき、そのひとつの選択肢としてチームリーグ戦という方式になりました。そして大会のおもしろさや選手たちの魅力など、チーム戦ならではの新しい見どころやドラマ、ストーリーを視聴者さんに届けられると思い、現在の形とさせていただきました。

■転換期は2021年!ライブ配信により選手とファンがストーリーを共有・共感

――注目が高まるなかで2021年には「チームオーナー制」となりました。試合数と賞金総額も大幅にアップし、そのほかホーム&アウェーなど現行の基盤が構築されましたが、この変化の狙いは?

【網本圭孝】2021年はチームオーナー制を導入したことに加え、ライブ配信での開催が大きな転換点となりました。それ以前の2018年から2020年までは、現在のトップシーンで活躍しているプロ選手にリーダーとしてチームを組んでいただいて、エンターテインメントとしての見せ方を意識しました。

ですがリーグが盛り上がるなかで、私たちはよりリアルなスポーツに近しい緊迫感のあるリーグ運営や競技制を追求したいと考えるようになりました。そんななか、2021年からご参画いただいたチームオーナーのみなさまに賛同いただき、同年からはオーナーがチームを所有する、いわゆるプロ野球やプロサッカーに近い形式のリーグ運営を行えるようになりました。

――チームのオーナーがいて、それぞれのチームが選手を獲得し、チーム力で戦うという仕組みは格ゲー初心者にも理解しやすいリーグ方式ですね。コロナ過を経て、eスポーツをオンライン配信で視聴する文化も根付いてきているように感じます。

【網本圭孝】ライブ配信に関しては、2021年までは事前に収録した大会の映像を編集し、週に一度配信する形でした。ただ、収録のために時差があり、選手たちが大会の結果を公には言えなかったりと、盛り上がりに上手くつなげられないという課題がありました。そこで、ライブ配信へ切り替えたことで選手は試合後すぐに個人配信を行えて、勝利の喜びや敗北の悔しさなど、選手とファンがストーリーを共有・共感できる部分が増えました。

また、オンラインでのリーグ戦なので全国どこからでもSFリーグに参加できるようになり、選手の才能が埋もれずに済むようになりました。結果的に視聴者数も飛躍的に増えたので、2021年はSFリーグにとって大きな転換期と言えます。

■「地方創生」の取り組みも!全国には「ストII」にハマったファンが数多い

――「スト6」発売から1年。全国各地で大会が開催されて盛り上がっていますが、何かきっかけはあったのでしょうか?

【網本圭孝】2018年に開催した「ルーキーズキャラバン」というイベントがきっかけでした。同イベントは、各地方のショッピングモールや熊本城下の城彩苑といった施設をお借りして実施しました。

同イベントは「各地域の選手の方に活躍してほしい」という思いで開催していて、その結果、各地域のニュースや新聞で取り上げていただけました。同年からSFリーグが始まってeスポーツが注目を集めはじめていた時期だったこともあり、多くの企業・自治体から「ウチでもやってみようかな」「視察させていただけますか?」といった問い合わせをいただくようになりましたね。

――かつて「ストII」をプレイしていた方が全国にたくさんいることも、こうした活動が受け入れられたきっかけなのでしょうか。

【網本圭孝】90年代の「ストII」ブームを体験し、熱狂した方々が現在40代、50代となっていて、自治体や企業のイベント担当者から「昔『ストII』やっていました!最新作で協力させてください」「一緒に何かできませんか?」と提案していただくこともありました。

約30年越しのファンの方とさまざまなお話しできて本当に感慨深かったです。当時の「ストII」ブームを盛り上げてくださった先輩方には感謝しかありません。

■「豪鬼」の“隠し要素”は後日SNSで公表する予定だった?

――6月2日に1年を迎えた本作ですが、ゲーム内容についてもお聞きしたいと思います。5月22日には大型アップデートが実施され、豪鬼の参戦、全キャラの調整、歴代BGM機能などが追加されました。特に豪鬼の隠し要素については、プレイヤーの間で大きな盛り上がりを見せていました。

【中山貴之】隠し要素については、主に「実況機能が動物の鳴き声に変わる」というコマンドや、「豪鬼がおにぎりを食べてパワーアップする」といった要素を入れていました。すぐにバレるとは思っていなかったので、後日SNSで公表する予定でしたが、バージョンアップ当日の時点ですでに発見している方がいてとても驚きました(笑)。

――5月22日の盛り上がりは“お祭り感”があってワクワクしました!この盛り上がりを牽引しているストリーマーの皆さんが個々でイベントを開催していて、そうしたライブ配信が軒並み高い視聴者数を叩きだしています。

【中山貴之】最近では、人気ストリーマーのSHAKAさんが「LEGENDUS STREET FIGHTER 6 師弟杯」というイベントを主催していましたし、プレイヤーさんたちが“自走”して楽しんでくれる環境が作れているという実感はあります。

――自走と言いますと、SHAKAさんの「師弟杯」もそうですし、格ゲー配信者の修行僧さんはマスターリーグの“最下層”をエンタメ化して人気を博しています。カプコン発ではなく、ストリーマー自らが「スト6」の楽しみ方を考えて、それぞれのファンにエンタメを提供している点はすばらしいと思います。

【中山貴之】実は開発陣にも修行僧さんのファンが結構いるので、お名前が出てきて驚きました(笑)。現在のようにストリーマーの皆さんに盛り上げていただいているのは大変ありがたいですね。

■目指すのは「楽しいからゲームを続ける」とプレイヤーが思える作品

――ストリーマーと「スト6」の関わりが当たり前になっていますが、こういった連携は狙っていたものなのでしょうか。

【松本脩平】実は、こうした取り組みは2021年、2022年の「ストリートファイターV」(以下、「ストV」)のころから実施していました。むしろストリーマーのカルチャーが流行っているのだからどんどん取り入れていこうとしました。

「スト6」の発売時に目指していたのは、YouTubeやTwitchなど動画配信サイトにあるサムネイルを「スト6」だらけにすることでした。ストリーマーさんたちの配信を通じて、格闘部分はもちろん「ワールドツアー」や「バトルハブ」といった、「スト6」のさまざまな魅力を見てもらえればと考えていました。

――まさに狙い通りにの形になったわけですね。

【松本脩平】「ストV」の後半期や「スト6」のリリース前あたりから、プロゲーマーやFGC(格闘ゲームコミュニティ)のストリーマーのみなさん、さらにはほかのゲームのストリーマーさんたちが交流するようになっていました。これにより、“ジャンルの垣根”がなくなってきている実感を得られました。同時に、偏りなく多くのプレイヤーさんたちが楽しめるゲームを作り上げることができた、という確信を持てました。

何より、プレイヤーさんたちが自走して遊んでくれていることがとてもうれしいです。私たちが目指していたのは、「楽しいからゲームを続ける」と思ってもらえるゲームです。そして、その基盤となるのは、開発チームが創り出したおもしろいゲームとコミュニティメンバーとの交流や良好な関係性です。これらがうまく融合し、現在のいい状態につながっているのだと感じています。

■目標は「スト6」を全人類に遊んでほしい

――今後の取り組みについて、言える範囲で結構ですので教えてください。

【松本脩平】中山ともよく話すのですが、私たちは“「スト6」を全人類に遊んでほしい”という思いがあります。そして今、ジャンルに関係なく、タレントさん、YouTuber、VTuber、ストリーマー、プロゲーマーのみなさんなど、いろいろな方に遊んでもらった結果、興味を持ってもらえている事実があります。

なので、例えばスポーツ選手や声優、力士、プロレスラーなど、そういった方々と一緒に異種格闘技対決のようなイベントが実現できたらなぁと妄想しています。そこにはもちろん、ストリートファイターを遊んでくれている一般のユーザーさんも参加してほしいと思っています。

――エドモンド本田を使う力士、ザンギエフでスクリューパイルドライバーを披露するプロレスラーの対戦が見られたら、かなり盛り上がりそうですね!全人類が楽しめる、という部分は冒頭の「伸びしろ」そのものだと思いました。

■選手たちの活躍と熱いドラマを、1人でも多くの方に届けたい!

――それでは最後に、目下の目標についてお聞かせください。

【網本圭孝】まず大会の観点ですが、弊社が行ったアンケート結果によると「スト6」のリリース以降、新操作システム「モダンタイプ」の導入でこれまで大会に参加していなかったプレイヤーも参加しやすくなり、参加者数が少しずつ増えてきています。

大会で優勝するのは各大会で1人ですが、大会に参加すること自体がおもしろいですし、仮に1回戦で負けたとしても、対戦の際のドキドキ感などは“体験”しないと味わえません。だからこそ、もっと多くの方に大会に参加してほしいと思っていますし、私たちも参加していただけるような仕掛けを作っていければと考えています。

――ストリーマー主催の大会から、各地域のコミュニティの大会などが全国各地で頻繁に開催されています。

【網本圭孝】公式大会ではなくても、各コミュニティやトーナメントオーガナイザーが開催する大会に参加して、ストリートファイターの大会を楽しんでいただきたいです。またカプコンプロツアーは日本からでも参加可能ですので、腕を磨いてぜひ参加してください。決勝大会であるカプコンカップの優勝賞金は100万ドル(※円換算で1億5000万円以上/2024年6月4日時点)と夢のある大会になっています。

――プレイする楽しさはもちろんですが、視聴する魅力も「スト6」にはあります。

【網本圭孝】かねてよりSFリーグを応援してくれているファンのみなさま、熱い戦いを繰り広げてくれているチームや選手のみなさま、そして昨今では大会シーンを盛り上げてくれているストリーマーのみなさまのおかげもあり、eスポーツの大会を視聴する方の数は年々増加しています。これからもその勢いを止めずに、視聴者を10倍、20倍に増やし、すばらしい選手たちの活躍やドラマを今後も届けていきたいと思っています。これが、私たちのeスポーツ事業を展開していく上での目標です。対戦を観て感動してもらえれば、「スト6」を“自分でもプレイしてみたくなる”と思うので、私たちはその導線を作っていければと考えています。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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