「聞き取りが苦手」で何度も「え?」と聞いてしまう!?「聞いてない」んじゃなくて、脳になんらかの障害が生じていました【漫画家に聞く】

「聞き取りが苦手」で何度も「え?」と聞いてしまう!?「聞いてない」んじゃなくて、脳になんらかの障害が生じていました【漫画家に聞く】

「聞こえている」のに「聞き取れない」「聞き間違いが多い」など、聞き取るのが困難な症状を「聞き取り困難症(LiD)」もしくは「聴覚情報処理障害(APD)」という。この症状は通常の聴力検査では異常が発見されず、難聴ではないとされる。しかし、耳から入った音の情報を脳で処理、理解する際に、なんらかの障害が生じている状態で言語として認識できない状態だ。そんな生活を送る高校生を描いた、雨桜あまおう(@amaousansan)さんの創作漫画「聞き取りが苦手すぎる男子の日常」を紹介する。

■「聞こえている」のに「聞き取れない」?言葉を言語として把握できないせいで会話が難しい
「聞き取り困難症(LiD)」もしくは「聴覚情報処理障害(APD)」に片足を突っ込んでいる主人公・橘結友。教室などガヤガヤした場所で友達と話をしていると、しばしば相手が何を話しているかわからなくなる。「必殺!テキトー相槌&愛想笑い」をしてみるものの「は?笑うとこじゃなくね?」と、状況と合わないことも。そして「いつも話聞いてない」「耳、悪いんじゃね?」と言われてしまう。聴力には問題がない。聞こえているのに言葉を言語として把握することが難しいのだ。

親友の白川銀司は声量、声質、話すスピードがちょうどよく、言葉がクリアに聞こえる人。大きな声で話してくれるため、入りやすい。多くの場面で銀司に助けられている。隣の席や近くで話すとよく聞こえるが、大勢で会話をするとそれもわからなくなってしまう。

本作は「聞き取りが苦手すぎる男子の日常」シリーズとして投稿されており、繁華街や電車のホームではほとんど会話にならないこと、学校など人が大勢集まるところの電話は聞き取り不可など、状況や心理状態がテンポよいコメディタッチで描かれている。

Xの投稿には17万いいねがつくとともに、「1対1は大丈夫。1対多は難しい。でも、ちゃんと耳は聞こえてる」「ほかにも同士がいると思うと心強いです!皆さんに知ってほしい。好きで聞き返しているわけではないのですぞ」など、同じ症状で苦労する人のコメントも届いた。

■「世の中にはいろんな人がいて、いろんな感覚を持って生きているんだなぁ」と想いを馳せるきっかけになれたら
今回、聞き取り困難症、聴覚情報処理障害を漫画にした理由や反響について、雨桜あまおう(@amaousansan)さんに話を聞いた。

――聞き取り困難症、聴覚情報処理障害について描かれていますが、今回のテーマに選んだ経緯を教えてください。

私自身、聞き取る力が少々弱めのようで、「日本語のはずなのに、理解できない謎言語のように聞こえてしまう」ということが日常的にあります。そういう下地がある中で、ふと「聞こえの感覚を物語にしてみようかな」と思い立ち、漫画を描いて公開するに至りました。

――元々、このような聞き取りにくい障害があることはご存じでしたか?知るきっかけがあれば、教えてください。

以前より、そういう症状があるということは知っておりました。私は長年、聴覚過敏と嗅覚過敏に翻弄されておりまして、関連する情報を集める中で知ったのだと思います。聴覚過敏、発達障害、聞き取り困難症etc――人によっては、いろいろとリンクしている場合などもあるそうでして。

――実際にこのような状況で生活している方はとても大変だと思うのですが、漫画ではそれをわかりやすく、かつおもしろく読むことができました。描くうえで、雨桜さんが気をつけたことを教えてください。

明るく軽やかに描き、読者が肩肘張らずに読める――ということを意識して制作しました。大変な生活=常につらくて、苦しくて、悲壮感が漂っていて、真面目で深刻(じゃないといけない)……という捉え方は、あまり自分の肌と作風には合わないので。

もちろん、苦しみの中で生きている方々と、そういった「重さや深み」を軸とした作品を否定しているわけではありません。が、私は個人的にコメディが好きなので、本作はコメディ調を軸に描いております。

――本人が聞き取りにくい部分を「ほにゃらら」と描いていながらも、読者にはなんとなく何を言っているか伝わる不思議な文字表現がすごいと思いました。文字の部分はどのように仕上げているんですか?

ちょっと読みにくい「ほにゃらら」部分のセリフには、続け字の書体を使用しております。聞こえ方の感覚をパッと目で見てわかるようにしたかったので、「これだ!」と思えるフォントを探し出すのが大変でした。使用させていただいたフォントの制作者様には、この場を借りて、心からお礼を申し上げたく思います。

――本作には、17万のいいねがつきました。感想はいかがでしょうか?

想像していた以上に多くの方にお読みいただいて、本当にありがたく思っております。とてもうれしいです。ゆっくりペースですが続きも描いておりますので、「自分にも思い当たるところがあるなぁ」と共感して楽しんでいただいたり、「身近な人、子ども、職場の人などにこういう傾向があるなぁ」という気づきに繋げていただいたり、「知らなかった世界を知れた!」と好奇心でお読みいただいたり、十人十色の楽しみ方で、漫画シリーズを味わっていただけましたら幸いです。

――本作を通して伝えたいことはなんでしょうか?

「世の中にはいろんな人がいて、いろんな感覚を持って生きているんだなぁ」と想いを馳せるきっかけになれたら……と思いますが、作者のメッセージを押し付けるのもアレなので、好きなように読み、楽しみ、読者の方それぞれの解釈で「何かを得ていただければ…!」と思います。

――そのほかにどのような漫画を描いていますか?

現在はほかに男子高校生のラブコメ漫画を描いています。ちょっと変わった設定から始まるコメディ漫画が好きなので、これからもそういう作品を作っていけたらいいな、と思っています。

取材協力:雨桜あまおう(@amaousansan)

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