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南海トラフ巨大地震がいつ起こってもおかしくないとされている中、「スロースリップ」現象が注目されています。
通常の地震では、断層が高速ですべって地震波を出します。これに対して、スロースリップは、断層がゆっくり動いて、地震波を出さずにひずみエネルギーを解放する現象です。
スロースリップそのものが大きな地震を引き起こすかどうかは現時点では不明ですが、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震や能登半島地震でも事前に発生しており、南海トラフ巨大地震との関連性も指摘されています。
この記事では、スロースリップの仕組みや南海トラフ巨大地震との関係、観測されたときの注意点や備えのポイントを紹介します。
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プレート境界の断層がゆっくりとすべる現象「スロースリップ」
地震は、地下の岩盤に蓄積されたひずみエネルギーを、断層のすべり運動により解放する現象で、通常の地震では断層が1秒間に約1mという高速ですべって地震波を放射します。一方、スロースリップとは、プレート境界が数日から数年かけてゆっくりとすべる現象のことで「ゆっくりすべり」ともいわれています。
スロースリップと高速すべりが互いに影響を及ぼし合う
プレート境界の断層では、スロースリップと高速なすべり(通常の地震)が混在し、お互いに影響を及ぼし合っていると考えられています。
スロースリップでは、人が気づくような揺れを発生させることは少ないものの、わずかな地殻変動が起こることもあります。
なお、スロースリップはスロー地震とよばれる現象の一つです。スロー地震はスロースリップ以外に、低周波微動や超低周波地震があります。
千葉県東方沖地震はスロースリップに連動
また、2024年2月26日から多発している千葉県東方沖の地震は、スロースリップに連動する地震活動と考えられており、スロースリップによってしっかり揺れを感じる地震が発生するケースもあります。
なお、スロースリップが発生したかどうかは地殻変動で判断しています。
国土地理院は全国約1,300箇所に電子基準点を設置しており、常に地表の動きを1cmレベルの精度で監視しています。また、気象庁や産業技術総合研究所では非常に小さな変化をとらえられるひずみ計で地殻変動の監視も行っています。
このように全国で高精度な観測ができる体制を整えていることで、スロースリップのように気づきにくい変化もとらえることができるというわけです。
スロースリップは「長期的」と「短期的」の2種類
スロースリップには大きく分けて「長期的ゆっくりすべり」と「短期的ゆっくりすべり」の2種類があります。
まずは以下の画像をご覧ください。
引用:気象庁「南海トラフ地震について」
図のように、ゆっくりすべりは、異なるプレート同士が固くくっ付いている部分よりも深い場所で起こる現象です。なお、このように2つのプレートが固くくっ付いている部分を固着域といいます。
南海トラフ周辺では豊後水道、紀伊水道、東海地域で観測されており、地殻変動をもたらします。
このうち、長期的ゆっくりすべりは数か月から数年間かけてゆっくりとすべる現象で、数年から10年程度の間隔で繰り返し発生していると考えられています。
一方、短期的ゆっくりすべりは、長期的ゆっくりすべりの発生領域よりもさらに深い場所で起こるのが特徴です。また、すべる期間も数日から1週間程度と短く、発生間隔も数か月から1年程度で繰り返し発生しています。
配信: 防災ニッポン