スロースリップと南海トラフ巨大地震との関係について
南海トラフではスロースリップが発生すると、プレート境界の固着状況が変化する可能性があると指摘されています。そもそも大地震は、2つのプレートの境界で強く固着している固着域がずれたり、壊れたりすることで発生します。つまり、スロースリップによって固く結びついているプレートの境界に刺激を与えることになり、それがきっかけで南海トラフ巨大地震を誘発する可能性があるというわけです。
このように、スロースリップが南海トラフ地震を誘発すると考えられている理由は、スロースリップによって、プレート境界の固着域に力が加わるためです。また、プレート境界の上盤や下盤の力のバランスが変わることも、原因と考えられます。
ちなみに、気象庁は南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、その現象が南海トラフ沿いの大地震と関連するかどうか調査を開始した場合や調査を継続している場合に「南海トラフ地震臨時情報」を発表します。
南海トラフ地震臨時情報の対象となる異常現象にスロースリップが含まれており、想定震源域内のプレート境界で、通常と異なるスロースリップが発生した場合にも発表されます。
なお、南海トラフ巨大地震と関連性が深いとされるスロースリップとは、南海トラフ沿いで従来から観測されている短期的ゆっくりすべりとは異なる、プレート境界における短期的ゆっくりすべりです。
数か月から数年間継続するような「長期的ゆっくりすべり」は変化速度が小さいこともあり、南海トラフ地震臨時情報の対象となっていません。
スロースリップが観測されたときの注意点や備えのポイント
スロースリップそのものは珍しい現象ではなく、南海トラフ沿いで発生したからといって、直ちに南海トラフ巨大地震につながるとは限りません。
しかし、通常とは異なるスロースリップが観測された場合は、プレート境界の固着域にいつもと違う力が加わることで、大地震を誘発する可能性もあります。
このような場合は南海トラフ地震臨時情報が発表されるため、いつ発生してもすぐに避難できるように身構えておきましょう。
また、南海トラフ巨大地震の前兆としてスロースリップが必ず起こるとも限りません。スロースリップの有無に関係なく、普段から避難場所や経路の確認、防災用品のチェックをして備えましょう。
田頭 孝志
防災アドバイザー/気象予報士
田頭気象予報士事務所所属。愛媛の気象予報士・防災士。防災記事、気象コラムの連載、テレビ番組の監修、BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数。防災教材の開発や防災マニュアルの作成なども行う。
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配信: 防災ニッポン
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