●「死後離婚」のメリットとは?
「法務省の戸籍統計(平成27年度報)によると、“姻族関係終了届”を提出する人は、ここ5年間で約1.5倍に増加しています。私のところに相談に来る方も、3~4年前は0件、2~3年前は1件程度でしたが、昨年は30件と大幅に増えました。配偶者が亡くなった場合、死別なので離婚と違って姻族との関係はそのまま継続されます。そのため、どうしても縁を切りたい事情がある人がする手続きと言えます。当然、さまざまな事情から逃れるための決断ですから、メリットも大きいです。しかし、その一方でデメリットもあることを忘れてはいけません。デメリットもしっかり把握して慎重に決断しましょう」
そう話すのは、夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さん。では、“姻族関係終了届”のメリットとは?
「メリットとしては、まず一番大きいのは“義理の両親やきょうだいとの縁を切ることができる”ということですね。義理の両親については、この書類が受理された瞬間から金銭的な世話や、介護の必要もなくなるのです。また、義理のきょうだいの素行が悪い、金銭問題を抱えている場合など、巻きこまれることを回避することができます」
さらに、墓問題についてもメリットが大きい。
「夫と一緒のお墓に入りたくない! 折り合いの悪い義理の両親と一緒のお墓に入りたくない! という場合、その必要もなくなり、それと同時にお墓を管理する義務感からも逃れることができます」
さらに、遺産については権利が保障されているのも大きなメリットだという。
「例えば、夫が亡くなり妻が“姻族関係終了届”を提出した場合、戸籍上にその事実が記載されるだけで除籍されるわけではありません。つまり、夫との関係は死別ですから遺産や遺族年金は変わらず受け取れるのです」
●「死後離婚」のデメリットとは?
以上のメリットをみてくると、いいことばかりにも思えてくるが、デメリットもあるのできちんと把握しておこう。
「まず、この書類を出すうえでしっかり知っておいてほしいのは、この書類は一度受理されて縁を切ってしまうと、“また関係を戻したい”と思っても、二度と取り消せないということです。義理の両親と養子縁組をして親族関係を回復させるということはできますが、あまり現実的ではありませんね。なので、提出するときは慎重に判断すべきなのです」
さらに、法事などが疎遠になることも覚悟が必要だ。
「姻族と縁を切っているわけですから、墓参りはもちろんですが、法要などの連絡も回ってこないでしょう。そうなれば、配偶者の年忌法要に参加できないことも覚悟しなければなりませんね」
姻族と縁を切ったあとは、近所に住むということも避けたいと思うのが当然だろう。
「義理の両親と同居していた場合はもちろんですが、近所に住んでいた場合も、やはり今後顔を合わせる可能性が少ないところに住みたいと思うのが当然ですよね。そうなれば、住み慣れた環境を離れるなど、自身の環境の変化も覚悟しなければなりません。さらに、これも当たり前ですが、今後わが身に何があっても姻族を頼るということも難しいでしょう」
もうひとつ知っておかなければいけないのが、わが子と義理の両親との関係だ。
「自分自身が姻族と縁を切っても、わが子は祖父母とは血族になるため、縁はそのまま継続します。しかし、自分が縁を切ることによって、子どもたちにも何かしらの影響が出る可能性もあるので、そこも覚悟しなければなりません」
追い込まれたときは、ついメリットばかりに意識がいきがちですが、そういう時こそ、しっかりデメリットも把握して決断する慎重さが大事ですね。くれぐれも、カーッとなった勢いで書類を提出して、あとで後悔しないように気を付けましょう。
(構成・文/横田裕美子)